›8 19, 2016

言ってはいけない 残酷すぎる真実 |橘 玲

Posted by skillstorage at 22:57 / Category: 書評 / 0 Comments

先進国の共通の倫理価値観として、「人類平等」があるが、人種や性別によって明らかな知能(IQ)の差や感情や思考の差が存在する。
例えば、ユダヤ人の中でアシュケナージと呼ばれる種族は、中世からキリスト教の禁忌である「金貸し」を職業としており同種族内での婚姻が繰り返されてきた。そのため、この種族は他の種族と比べ突出してIQが高いことが知られているし、逆にIQが低い民族というものも確かに存在するのだ。
このような事実さえも、人種差別につながることから発言することはタブーとなっている。

身近で実感が持てる事実として「美人とブス」の不公平がある。これもまた、事実として生涯賃金の格差があるが、大人になったら発言することがタブーだ。

しかし、本書ではタブー視されて隠蔽された事実にスポットを当てている。本書を読むことでこれまで見えなかった世界が見えるようになり、子供も教育方針から自分自身の生き方についてまで大きな示唆が得られるだろう。

大きな衝撃を受けた内容は、資本主義は知識社会という当たり前の事実を再認識させられたことだ。資本主義は知能の高い者による知能の低い者の搾取であり、社会に出ればそのことを実感する。
また、双子のうち一人はいらないからという理由で、多くの国で昔から養子に出させるケースが多いが、その追跡調査によると同じ職業や同じ趣味を選択したりと共通点が非常に多いことが知られている。その事実は裏を返せば、育てた親の教育方針や環境は人格形成にも将来にも大きな影響を与えることができないということだ。

このように、本書で語られる残酷な事実の中に周知のことは多いものの、現代の倫理観から自分の思考や知識からも抹殺してしまっていたことに気付かされた。

ただし、本書では最も重要な言ってはいけないことが書かれていない。それは、神はいない。精神世界も存在しない、という事実だ。最も、そんなこと証明できない事実だけど。

›5 18, 2016

エンロンから学ぶこと

Posted by skillstorage at 20:04 / Category: 書評 / 0 Comments

かつて世界中を震撼させた企業があった。地方都市の冴えない石油パイプライン会社だったエンロンは、貪欲にまみれた経営陣と金融工学と資本主義経済の歪みを利用して彗星の如く頭角を現し、世界を代表するエネルギー企業に上り詰め、あっという間に倒産してしまった。
倒産の最中に全米同時多発テロ事件が起こったため注目をあまり浴びなかったものの、今世紀最大の粉飾事件のみならず、異様な資本主義の象徴として今でも注目している。

エンロンを取り上げたドキュメンタリーは多いものの、いち早く実話を小説化した黒木亮は今読んでもやはり凄い。「青い蜃気楼―小説エンロン」、「虚栄の黒船 小説エンロン」では、3000社にも上る特別目的会社(SPE)に資産飛ばしを行い、粉飾により決算数値を偽り、負債隠しを行うことで株価吊り上げした細かい事例が列挙されている。

経営陣は倒産前に自社株を売ることでCEOのケネス・レイは1億ドル以上の売却益を得たり、会社を辞めているものの、従業員は、給料の一部としてもらった自社株を売ることを社内規定で禁じられ仕事と資産を両方失いながらも、倒産で解雇されるまで必死に働き続けた。エンロンは規模がとてつもなく大きいが、責任ある者が逃げ出し、末端の者が最後まで苦しむのは、他の企業でもあることだし、沈むタイタニック号を思い出させる。

ハーバード大学のMBA卒業者が、金融工学を利用し、ブッシュ政権にロビー活動をして、カリフォルニア州を故意的に停電までして市民に何兆円もの被害を出してまで利益を追求する光景は、倒産後の社員の録音テープから公開されている。倫理観が無く、会社を利用して徹底的に強欲に利益と権力を求める姿は、生きる目的と教育について深く考えさせられる。

ドキュメンタリー映画の「エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか?」では、残っている映像からいかに経営陣のモラルの無さと同時に強欲な姿がしっかりと捉えられている。

何軒もの豪邸を構え、専用機を保有しても満たされない強欲さ。そして抜群の頭の良さ。経営陣の多くは貧しい生い立ちだったり、地方出身者だった。一生遊んでも使いきれない金を持ちながら、何をそこまで求めたのだろうか。
特に、ケネスの後のCEOのジェフリー・スキリングの頭の良さと、部下を徹底的にこき使い、ライバルを突き落す執念は異様だ。ハーバードMBAの入学面接では「I'm fuckin' smart」と言ったという伝説は語り草だし、仕事以外でも異様なリスクを求めた。
ドキュメンタリー映画では、ジェフリーら経営陣が死ぬかもしれない砂漠でのラリーレースをする姿や大怪我をするシーンが残されている。

CFOのアンドリュー・ファストウはジェフリーに怯えながらも、息子にジェフリーと名付け犯罪と知りながらSPEへの資産飛ばしや資金調達の新手法を編み出し、冷酷に部下を使う。頭の良さと仕事は抜群だが、あまりにも性格の悪いジェフリーの唯一の親友であった元役員クリフォード・バクスターは、エンロン倒産後に謎の銃自殺を図る。

エンロンから巨額のM&A報酬を受け取る投資銀行や証券会社はエンロンの悪い情報をアナリストは書くことはできず、潰れるまで過剰な評価をしていた。監査会社のアーサー・アンダーセンもエンロンの不正の監査を拒否する社員は、外されたり解雇させられたりしている。

デリバティブを利用したエンロンの収益方法もまた注目に値する。エネルギー需給を調整しながら、アービトラージで儲ける利益相反から、エネルギーの調達仲介では固定費と変動費を金利スワップのように変動部分をスワップさせる新手法を編み出した。エンロン・オンラインではエネルギー販売を株の取引と同じようにコモディティ取引所とした。革新的な収益方法を編み出しながら、付加価値を産むわけではなく、一般市民が被害をこうむる。

資本主義の全ての闇と金融工学の恐ろしさを知ることができる良い教材として、今でも学ぶことがたくさんある。また、エンロンは非合法で倫理無視のビジネスに走ってしまったが、斬新な経営手法にも学ぶことは多い。
エンロン・オンライン構想はイギリス支社の新入社員のアイデアだったが、激務にも関わらず法務からITまであらゆる有能な人材が業務時間外に手伝い、応援することによって完成した。それも経営者が知ること無く、大型サーバーを購入して構築してから初めて当時CEOのジェフリーに報告したら怒るどころか「素晴らしい」と感動したそうだ。そしてエンロン・オンラインがエンロンの中核ビジネスになる。

「Think Why?」というミッション・ステートメントから常に常識を疑い、新しい創造と価値を産む企業文化。毎年、企業の人事考課の上位20%には多額の報酬とラスベガス旅行が与えられるのに対して、下位20%は解雇という厳しい環境。多額の年棒とストックオプション。この事件から数年後に日本のネット企業で急成長だったライブドアのフジテレビ買収が始まり、その後崩壊となるのだが両社には似ている点もあるのもまた興味深かった。

›4 18, 2016

橘玲の中国私論

Posted by skillstorage at 20:03 / Category: 書評 / 0 Comments

われわれ日本人は米国にならい民主主義、資本主義こそが正しいという価値観でものごとを捉えている。しかし、民主主義はどのような個人も尊重し、個人に優劣をつけない。国民全体としての幸福度を最大限に上げようという功利主義では問題となる体制だ。中国では、大衆は民度が低い愚民であるという前提の元、個人の自由を尊重せず国家としての幸福度向上の政治体制と考えると、中国のこれまでの行動が理解できる。

本書を読むと驚きの連続だが、その驚きは自分の思考が欧米化してしまっているという気づきも同時に与えてくれる。

中国のアジアインフラ投資銀行(AIIB)による世界各国への投資の意義は覇権とばかり思っていたが、そうでも無いようだ。ビジネスとしての投資の意味もあるし、投資する独裁国への賛同と協力を得るという重大なミッションがある。例えば、台湾を中国の一部とする、アジアで日本の覇権を許さず戦争被害の当事者として弾圧する、中国の先進国からの人権無視国家という中傷を辞めさせる、といった経済的、政治的なポジショニング戦略としても重要な意義があるのだろう。

読むにつれて、中国への理解が深まるのだが、民主主義の限界についても考えさせられる。

中国の権力中枢において、そもそも現代の欧米先進国よりも高い理想で国家運営がなされているとのことだ。欧米先進国はいうまでもなく、「自由」、「平等」、「民主主義」を大前提としている。しかしそれらは中国の国家運営の前提である 「公正」、「正義」、「文明」という価値の方が中国人からみたら遥かに優れているとのことだ。確かに、中国古典の孔子や孟子の時代の倫理は優れているが、拝金主義の中国ではとても有り得ないと思うのだが。

米国では大統領予備選挙において、人権無視の上、暴言を吐くドナルド・トランプが共和党候補として圧倒的な支持を得たし、ブッシュ政権は強引にイラク戦争に突入した。民主主義においては、民度が低いと国家が暴走する危険性を伴っている。
むしろ、愚民ならば中国のように優秀(とされている)な科挙の伝統を継承する役人による国家統制の方がよほど国家運営がうまくいくのかもしれない。

それでも、国民の個人の自由は何よりも大切だと信じている気持ちは変わらない。むしろ、国家の暴走を止めるために米国民に銃を持つ権利が保障されるように、国民が国家に頼らず自立することで国家の役割を減らすことが今後の世界にとっては重要だと再確認させられた。


›3 01, 2016

空飛ぶタイヤ

Posted by skillstorage at 18:44 / Category: 書評 / 0 Comments

三菱自動車のリコール隠し事件を覚えているだろうか?当時新聞やテレビでも取り上げられていたが、当事者意識が無いため記憶が風化してしまっていた。
「下町ロケット」や「半沢直樹」の池井戸潤の作品だが、「空飛ぶタイヤ」は三菱ふそうトラックのタイヤ脱輪による死亡事故をテーマとしている。

トラックのタイヤが脱輪し、歩行者の子連れの母親に直撃する死亡事故を発端とする物語なのだが、トラック運転手は殺人鬼呼ばわりされ、トラック運送会社の社長は整備不良で警察の捜査が入ることとなる。
実際、三菱自動車リコール隠し事件でも、トラック運送会社の自宅には「人殺し」と張り紙が貼られたそうだ。
リコール隠しが発覚していなければ、本当に人殺しとしてトラック運転手も運送会社もその家族も社会的に抹殺されていたかもしれないのだ。

「空飛ぶタイヤ」では、トラック運送会社の社長が、警察と自動車会社から疑いと非難を向けられ崖っぷちにも関わらず不屈の精神で会社の無実の戦う話だ。

このような大企業の不正隠しは実は多く存在するだろう。耐震偽装や検査結果改ざんや三菱自動車のリコール隠しなど、実は氷山の一角と言われている。
消費者は個人として弱者であり、中小企業もまた弱者だ。

トラック運送会社は、検査対象の自動車脱輪の部品であるハブの返還請求と裁判を決意するが、社会的信用を失い仕事が激減し運転資金の減少という時間との闘いになる。
社長の小学生の息子は学校で、父親が人殺し扱いされ深刻ないじめ被害にあう。学校で盗まれた集金袋の犯人扱いにもされてしまう。

他方、自動車会社の品質管理部門に不信感を抱き、運送会社との折衝の窓口にある管理職は、品質管理上の問題とリコール隠しを確信するが内部告発しようとした最中に、希望職種だった開発部門へと異動が命じられる。
リコール隠し隠蔽とのバーターと理解しつつも受け入れ、会社のために運送会社と対決することになる。

グループ会社の銀行でこの自動車会社を担当する社員は、婚約者がこの自動車会社の常務取締役であり、結婚とのバーターで多額の融資をすることになっているのだが良心の呵責に悩む。そんな最中、銀行員の大学時代の同級生が週刊誌記者でリーク隠しを取材していることから接触を受ける。

多くの利害関係者が良心と自己や組織の利益の選択に悩み続ける。何故、良心に従い行動しないのか。失うものを持っている故なのか。

実際に起こった話に脚色されてはいるが、事件に巻き込まれた人をうまく描けている作品だと思う。また、当然この自動車会社の製品は絶対に買わないと確信した。


›2 20, 2016

プラチナタウン

Posted by skillstorage at 22:23 / Category: 書評 / 0 Comments

過疎化が進んでる多くの地方都市が存続の危機に立たされている。地方創生の名の元に、かねてから過疎債や地方交付税によるバラマキが行われてきた。
商社やブローカーが地方自治体に押しかけ、行政と一緒になり無駄な箱モノ行政が行われた。
これは地方によくある光景である。

その結果、現在では財政維持ができずに滅び行く自治体が多数ある。
「プラチナタウン」に登場する町も、産業が無い地方都市だが100億を超える債務が残り、財政再建団体になろうかとしている。
町長が退任し希望を失った町役場は、町を去り日本を代表する総合商社に勤務する中年に希望を託すこととなる。

この話に似た光景はいくつもの地方自治体で見ることができる。そういえば、うちの父親の出身の田舎でも同じ光景が繰り広げられた。
人口減少の一途にあり、大都市からも遠く、目立った産業は無い町で、町長の横領によるリコールが行われた。
この話と同様に、東京で働く初老の金融マンが同級生から声を掛けられ、町長に立候補して当選した。

プラチナタウンでは、田舎ならではの自然と土地の安さから、町長は老人ホームの建設に奔走する。
これまた、目新しいプランでは無い。

米国のアリゾナ州は夏は50度を超える日もある砂漠地帯だが、Sun Cityという町がある。ここは砂漠の何もなかった土地に不動産デベロッパーが高齢者向けに人為的に建造した町だ。
病院、教会、ショッピングセンター、そしてゴルフ場やテニス場を完備しており、富裕層の高齢者専用だが商業的にも成功している町だ。
この町では、自動車の速度制限が厳しく、老人が自宅からそのままゴルフカートで公道を走り、ゴルフ場に向かう姿がよく見られた。
先進的な取り組みだと見ていたが、高齢化が進む日本で見習うことは多いと思ったものだ。

プラチナタウンが行おうとしているのは、民間の力を借りて財政を立て直すこと、地方創生であり、町の再建である。
もちろんそこには利権がらみの汚い連中が大勢いる。しかし、リーダーシップとビジネスで学んだ収益管理とビジネスプランで何とか、町民に希望を与え続けようとする必死な姿に心を打たれること間違いない。