›12 22, 2014

ピケティの「21世紀の資本」を読み解く

Posted by skillstorage at 01:42 / Category: 書評 / 0 Comments

今年大ヒットして、多くの話題をさらっているビジネス書がトマ・ピケティの「21世紀の資本」である。
膨大な過去データを分析し、英語版では900ページを超えるものの米国で大ヒットし、日本でも今冬翻訳発売された。

大きく「Capital(資本)」と書かれた表紙はマルクスの資本論を彷彿させ、内容も資本家と労働者の格差拡大がテーマなだけに、世界中で新聞・雑誌等のメディアで大きく取り上げられている。

ピケティの主張は、下記の等式に表される不平等だ。

r > g

r(資本収益性)がg(経済成長)つまり労働対価(人的資本)を上回るという歴史的事実だ。
マクロ経済学的には「r = g 」に収斂するが、そうなっていない事実である。

つまり、労働者が働くよりも、その企業に株主として投資することのリターンや不動産投資の方が儲かるということだ。

ピケティはこの事実が格差を広げ、不平等につながり、いずれは民主主義の崩壊に繋がると懸念している。
また、その解決策として、グローバルな資産課税強化を主張している。

世界的に課税は労働者の所得税に大きく偏っている事実がある。資産課税を行えば資産家は税率の低い国に容易に移住できるが、労働者はそうはいかない。課税しやすいところから課税しているということだ。そのため、グローバルに資産課税強化するのだ。

しかし、これには大きな問題が3つある。
1つ目は、投資意欲が減退し、その結果として経済成長率が低下し労働対価まで下がってしまう。
2つ目は、資産家の納税額が絶対的に大きく、納税による社会貢献度が高いにもかかわらず、民主主義では1人1票のため権利が少ないためあまりにも不公正な点だ。
3つ目は、先進国内で格差は拡大しているが、先進国と発展途上国の格差は縮まり、人類全体としては豊かになってきているという事実だ。

いずれにせよ実現不可能な解決策だが、民主主義を守るためには資本主義の矛盾を是正するしかないという意思が感じられる。

また、通常rとgを直接比較しない。rが投下資本対収益率であり、企業でいえばROEにあたる。それに対してgは付加価値の成長率でしかない。
リスクフリーのrとして国債利回りや銀行預金の利息があるが、それよりも高い利息の銀行融資で借りて投資することにより、より高いr(投下資本利益率)が得られる。
他方、gに対してもGDPの成長率のように先進国の労働者の対価は増加しない。むしろ先進国では非正規社員が増加して実質賃金は低下している。

ピケティの示すように、戦時中や戦後に資本が徹底して破壊された後以外は、資本収益率が高いという事実が資本主義が常に成長を前提としている事実である。

過去100年以上の歴史を読み解いたデータだが、21世紀は誰もが不動産や株を所持する資本家になれる時代であり前提が大きく異なる。土地を地主から借り、企業の株主になれない時代とは違うのだ。

ピケティの考察が21世紀も続くのであれば、働くことを辞め、金持ちと結婚することを何よりも優先し、住宅ローンなど多額の借金で得た借入を不動産や事業に投資する戦略が有効になる。

›12 16, 2014

お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方2015 知的人生設計のすすめ

Posted by skillstorage at 04:10 / Category: 書評 / 0 Comments

振り返ってみると、自分は社会人になって間もなく橘玲の書籍に影響を受け続けてきた。
約15年前、「ゴミ投資家のための人生設計入門」という本書と内容が同じ書籍を見つけ、貪るようにシリーズを読み進めた。
そこには社会人として当たり前の目標であったり、人生設計の根底である住宅ローンと生命保険を否定していたのだ。

思えば、社会人になって当たり前の前提が崩れていた時期でもあった。
山一證券が倒産し、大企業が当たり前のように潰れ、終身雇用が崩壊し、IT革命によって産業が大きく変わる期待があった。女性は一般職で男性が総合職という括りも無くなり、専業主婦も減っていくだろうなと思った。

「ゴミ投資家シリーズ」を読んでいたからか、同僚や同じ職場で働く人たちを斜に構えて見ていた気がする(笑)。
書籍「ゴミ投資家シリーズ」の案内からだったか、海外銀行や海外証券会社をつくるセミナにも参加した。ちょっとした小金持ちよりも自分と同じような若くて貧乏そうな人達も多く参加していたのが記憶に残っている。

数年経って「お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方」が出版されて読んだが、「ゴミ投資家のための人生設計入門」をちょっと直しただけだったので、最初に読んだようなインパクトは無かった。

その後、海外の銀行も証券会社の口座もつくったが、当時とは情報量も違うし、自分の英語能力や海外での交渉能力も全く違うから大きく成長したと思う。
しかし、未だに自分の同年代(アラフォー)は90年代からさほど変わらない価値観で生きているし、橘玲の書籍でも出てくる金銭的な自立であるとか、政府に頼らず生きていくリバタリアン的イデオロギーは未だに普及していない。

むしろ20代から30代前半には、独立や転職を息巻いていた連中も、すっかり会社の居心地が良いからか、年齢と共にもう市場価値が無くなってしまったことを自覚したからか、おとなしくなってしまった。

家族が出来て、マイホームのローンや生命保険や教育費の支払いに必死で、働いて借金を返すだけの生きる奴隷のようになってしまった者も多い(笑)。

今回、大幅に改訂された「お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方2015 知的人生設計のすすめ」を読んで、まず驚いた。
これまで語られることの無かった橘玲氏が脱サラして作家になるエピソードが詳細に書かれているのだ。

彼もまた、ごくありふれた家庭持ちの中年サラリーマンだった。出版社で働いていたこともあり、90年台半ばから出版業界の将来を危惧していたのが独立の根底のようだ。出版業界にいたとは思えない高度な金融知識を習得していったのは、何とマイクロソフトの株を買うためだったのだ。

もちろんバブル崩壊から間もない頃から出版業界の構造を見破り、爆発的にWindows95が売れていたとはいえ、その米国株を買おうと思ったからには特別な才能の持ち主だっただろう。それは、その後の作家として金融業界の知識から政治、イデオロギー、人種、マッドサインエンスまで幅広くカバーしていることからも分かる。

原書を読んでも気づかなかった社会的な関連や、読者に訴えるものは、元々ただのサラリーマンだったからだろう。

「ゴミ投資家シリーズ」から海外への金融機関への投資が広く知られることとなったが、実はそれ以前から、金持ちは節税のために利用していたのだ。そこにはブローカーが多くいて、筆者も脅されたり勧誘されたり、様々なことがあったようだ。

橘玲氏は作家になるよりも速く、確実に大金持ちになることが出来ただろう。社会の歪みと、情報の格差を利用して。
それでも、1冊2000円もしない書籍によって日本人を啓蒙してくれたことに大きな敬意を払いたい。


›12 10, 2014

アベノミクスの失敗

Posted by skillstorage at 03:22 / Category: 政治経済(Political Economy) / 0 Comments

アベノミクスの失敗が明確化してきている。「3本の矢」で説明してきた政策は、安倍政権誕生時の景気回復期待のみだったのだ。
日銀の金融緩和とインフレターゲットは円安と資産価格の高騰を引き起こした社会実験であったが、これもまた失敗であった。

景気回復を多くのエコノミストが期待していたが、逆に7~9月期の国内総生産(GDP)改定値は下方修正された。
日銀の金融緩和は効果があった。但し、それは日本国民にとって有益とはいえない。通貨価値を下落させ、故意にインフレを引き起こしたものの、需要は増えていないのだ。

アベノミクスの需要創出案は、大企業優遇と資産価格高騰によるバブル創出からのトリクルダウンだ。つまり一部の儲かっている人や企業の消費が、中小企業や国民を潤すという考えで、再三にわたり賃上げを依頼してきた。また、公共事業の拡大で必要もない財政出動を行った。

それでも効果が無い。逆に、インフレによる生活費の上昇や財政悪化の不安から消費は増えていないのだ。

4月の消費税増税後、個人消費や設備投資の低迷が続くが、設備投資が伸びないことが顕著に物語っている。
また、株価は上がり収益も増加している自動車業界だが、日本自動車工業会が発表した2014年10月の自動車輸出実績によると、四輪車の輸出台数は前年同月比1.6%減の40万1250台となり、3か月連続で前年同月を下回っているのだ。

つまり、円安でも海外での需要が増加していない。輸出総量は減ったものの、円安で見かけの利益が上がっているだけなのだ。
また、中小企業である下請企業は、その恩恵を受けていない。仕事量が増えている訳では無く、円安メリットどころか原材料費の高騰から原価が圧迫されている状況だ。
金融緩和による過剰流動性は資産バブルにつながることは過去の金融危機を思い出せば分かる。銀行融資残高は緩やかな増加とはいえ、設備投資の需要が有るわけでもない。


また、雇用の改善というが公共事業でムダな支出が増えて非正規社員が増加している。正規社員は2年間で38万人減り、実質賃金は16ヶ月連続減っているのだ。
円安倒産が3倍に増加しているのも見逃せない。

このような状況で、自民党再選でどのような政策を実行するのだろうか。
第一の矢である金融緩和は継続され、円安はさらに続く。円安対策の声が上がっているが、対策するためには金融引締めになり全く逆の金融政策になってしまうから実行不可能な状況だ。
本題、第3の矢の成長戦略における規制緩和を推進すべきであるが、自民党政権では実行できなかったではないか。

とはいえ、小選挙区制度は大きな政党有利であり、現状を打破するためは「小さな政府」を打ち出す政党に頑張ってもらうしか無い。

›12 03, 2014

アベノミクスとトリクルダウンとシルバーデモクラシー

Posted by skillstorage at 00:40 / Category: 政治経済(Political Economy) / 0 Comments

「小さな政府」を目指していたみんなの党が解党し、維新の党も支持率が低迷しており、日本における投票者の多数を占める老人に喜ばれる政策を掲げると社会福祉の充実という大きな政府になってしまう。
若者を中心に支持する政党が無く投票が下がってしまう。
このような年寄りに迎合する政治を「シルバーデモクラシー」と呼ぶ。

アベノミクスにより株価が急上昇した反面、円安という負の側面が目立ってきている。金融緩和についてよく考えてみて欲しい。
量的緩和による流動性は、過剰流動性となりバブルを産む。
2%というインフレ目標も、本来の良いインフレというのは需要の増加による価格の上昇だが、需要が無いのに札束を刷って、通貨価値を下落させることによる価格の上昇というとんでもない間違いを犯しているのではないだろうか。

簡単な例を考えてみよう。
1億円の宝くじが当たった人がいると、その人はそのあぶく銭を浪費するだろう。その金が消費に使われれば需要の増加であり、価格の上昇となる。
しかし、実際には宝くじというのは損をする人の方が遥かに多く、約50%が胴元へのテラ銭となる。結果として1億円当選者の他には広く、薄く2億円を多くの人が合計で損をしているのである。
そうなると、損をした人は少しづつ消費を引き締めるので、結果として需要が減退しデフレとなる。

金融緩和とこの宝くじにどれほど差があるだろうか。
アベノミクスにより資産価格が上昇し、働いている人ではなく、不動産や株価が大幅に上昇したのだ。富める者はますます富み、浪費することにより需要が増え、価格が上昇しインフレとなる。
札束を刷って増やしても、通貨の裏付けである国家の信用力が変化している訳でもなく、ウィスキーを水割りで割っているに過ぎない(アルコール総量は変わらない)。
そのため、当たり前のように日本の通貨価値が相対的に下落し、大幅な円安に触れたのだ。

さて、この大規模な金融緩和は、通貨価値下落により圧倒的多数の対して資産を持たない、中~底流階級に広く浅く、負担を強いられることになる。
それに追い打ちをかけて、円安による海外からの輸入品である原材料、エネルギー価格の上昇と増税だ。
消費の落ち込みが顕著に現れた訳だ。
更には、将来への不安から消費ではなく貯蓄へ回す者が非常に多い。これはまたデフレになる最大の要因だ。

実は、この傾向は先進国共通である。新興国から先進国入りする段階の韓国、台湾でさえ、若者は正規社員の道が閉ざされ低賃金の非正規社員が増加している。
社会保障の拡大は、本来は子供を産み、人口を増やし経済の成長に寄与すべきなのが、引退した年寄りへの分配比率が多いあまり出産どころか結婚もできない若者が増加し、国力が衰える傾向なのだ。

根本的に政策が間違っていると思う。しかし、それを解決できる政党、政治家はいるのだろうか。

冒険投資家であり、家族を連れて米国から中国に移住し、現在はシンガポール在住のジム・ロジャースがTVインタビューで言っていた。「日本の子供は移住サせた方が良い」

年金はネズミ講で、子供達は搾取され、産まれた時から多額の借金を背負うのだ。