›3 01, 2016

空飛ぶタイヤ

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三菱自動車のリコール隠し事件を覚えているだろうか?当時新聞やテレビでも取り上げられていたが、当事者意識が無いため記憶が風化してしまっていた。
「下町ロケット」や「半沢直樹」の池井戸潤の作品だが、「空飛ぶタイヤ」は三菱ふそうトラックのタイヤ脱輪による死亡事故をテーマとしている。

トラックのタイヤが脱輪し、歩行者の子連れの母親に直撃する死亡事故を発端とする物語なのだが、トラック運転手は殺人鬼呼ばわりされ、トラック運送会社の社長は整備不良で警察の捜査が入ることとなる。
実際、三菱自動車リコール隠し事件でも、トラック運送会社の自宅には「人殺し」と張り紙が貼られたそうだ。
リコール隠しが発覚していなければ、本当に人殺しとしてトラック運転手も運送会社もその家族も社会的に抹殺されていたかもしれないのだ。

「空飛ぶタイヤ」では、トラック運送会社の社長が、警察と自動車会社から疑いと非難を向けられ崖っぷちにも関わらず不屈の精神で会社の無実の戦う話だ。

このような大企業の不正隠しは実は多く存在するだろう。耐震偽装や検査結果改ざんや三菱自動車のリコール隠しなど、実は氷山の一角と言われている。
消費者は個人として弱者であり、中小企業もまた弱者だ。

トラック運送会社は、検査対象の自動車脱輪の部品であるハブの返還請求と裁判を決意するが、社会的信用を失い仕事が激減し運転資金の減少という時間との闘いになる。
社長の小学生の息子は学校で、父親が人殺し扱いされ深刻ないじめ被害にあう。学校で盗まれた集金袋の犯人扱いにもされてしまう。

他方、自動車会社の品質管理部門に不信感を抱き、運送会社との折衝の窓口にある管理職は、品質管理上の問題とリコール隠しを確信するが内部告発しようとした最中に、希望職種だった開発部門へと異動が命じられる。
リコール隠し隠蔽とのバーターと理解しつつも受け入れ、会社のために運送会社と対決することになる。

グループ会社の銀行でこの自動車会社を担当する社員は、婚約者がこの自動車会社の常務取締役であり、結婚とのバーターで多額の融資をすることになっているのだが良心の呵責に悩む。そんな最中、銀行員の大学時代の同級生が週刊誌記者でリーク隠しを取材していることから接触を受ける。

多くの利害関係者が良心と自己や組織の利益の選択に悩み続ける。何故、良心に従い行動しないのか。失うものを持っている故なのか。

実際に起こった話に脚色されてはいるが、事件に巻き込まれた人をうまく描けている作品だと思う。また、当然この自動車会社の製品は絶対に買わないと確信した。


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