問題を抱えている企業では、いくつもの問題が複数に絡み合ってカオスの状況だ。
モグラ叩きのように、問題をひとつ潰してもまた別の問題が発生する。
「V字回復の経営」では、経営コンサルタントと経営チームが強力なリーダーシップの元に2年間という与えられた期間において、企業再生を実行していく小説だ。
社員の思考方法、問題へのアプローチがバラバラであったら複数の問題など解決することなど出来ない。
物語の舞台は、売上高410億円、従業員数710名、赤字20億円の工作機械メーカだ。この小説の舞台は、実話を元につくられており、建機のコマツ、その子会社で産業用工作機械メーカのコマツ産機ということはメディアなどでも取り上げられている。実話とは違う箇所も多いようだが、実在の企業をイメージして読み進めると面白いのではないだろうか。
また、企業再生にあたりタスクフォースが組まれたが、その中心人物であり社内でくすぶっていたという人物は金型メーカで企業再生中の会社アークの社長鈴木康夫氏である。
さて、経営トップに指名された黒岩は、会社の業務を理解するのに2か月、その後の精鋭部隊との現状認識に就任から6か月を要している。
日本の大企業の典型的な組織の病がある。権限と責任が一致しておらず、責任の範囲があいまいなことだ。プロジェクトの失敗において誰も責任を取らずにうやむやになってしまう。
また、管理職にプロ意識が無く、管理している組織やプロジェクトに対する経営者としての意識が欠落している。
このような弛んだ精神や幼児性を取り除き、プロ意識を徹底するだけでも組織は変化するだろう。
そして、経営コンサルタントとしての企業分析だ。
商品群ごとにその市場性を分析する。市場全体の規模間、成長性、競合の状況を把握する。それを元に自社の商品群の市場占有率、成長性を元にプロダクトポートフォリオ・マネジメントをつくり戦略を練るのだ。
例えば、その業界にはガリバー企業がいて市場の半分を抑えられているとする。そのような市場においては真っ向からぶつかっても勝てない。差別化戦略を中心に戦略を練り上げる。
また、自社の商品が市場占有率も低く、毎年売上成長をしていないのであれば、撤退を検討する。
フロントエンド(売り側)の戦略としては、このような分析を細かく行い営業マンは商品群の中の特定の戦略商品を中心に販売活動を行う。
バックエンド(作り手側)としては、フロント側のマーケットニーズを如何に商品開発に活かすかがポイントだ。大企業であれば、商品開発者、設計者が顧客ニーズを把握しておらず、自己満足の製品開発を行っているケースが往々にして見られる。
このようなことから、抜本的な改革として、商品群をビジネスユニットと呼ばれる疑似企業に会社を分断させた。
そのビジネスユニットにバックエンド側の設計~製造までも分けてしまったのだ。当然、売上・原価・経費といったP/Lも書くビジネスユニットで管理することになる。
一見すると余りにも効率が悪いように思える。
本来企業は大企業になるほど、大量購買、量産効果でスケールメリットが出るからだ。
しかし、あえてスケールメリットを犠牲にして中小企業の集まりのようにすることにより、現場、営業、生産までの情報共有の伝達スピードが劇的に短くなり、情報量そのものも減る。
なんと、本書の例では、以前の組織より縦の階層が減りフラット化することにより、中間管理職を中心とする余剰人員が減らせられたのだ。
そして、ビジネスユニットの商品群ごとに現状認識、仮説を立て検証、戦略を練りその実現のためのプロジェクトを構築する。
例えば、商品の個別のコストダウンであったり、新商品の開発であったりだ。
それを一連のストーリーとして組織内の人員に共有し一丸となって目標に進む。
ここで重要なのは、測定できる指標が必要ということだ。KPI(Key Performance Indicater)と呼び、各プロジェクトごとに策定する。
例えば粗利、販間費、市場シェア、材料比率、顧客訪問数といった数値だ。
さて、本書では改革の実行を行う前の分析に半年を要し、企業がV字回復するまでにさらに半年を要している。
与えられた期間が2年間であったが、このような時間軸をどのように感じるだろうか。