先日中国滞在中に中国のビジネス雑誌を読んだのだが、日本では考えられないような高景気を謳歌している話題が多かった。
中国では昨年の金融危機以降今年の春までの不景気の谷を最後にこれからは長期的に成長する「黄金の10年」がやってくるという話もでているようだ。
確かに金融危機からの脱出は早かった。先進国が不景気に苦しむ中、中国は2桁の成長になりそうだ。しかし景気回復の背景には中国政府による過剰な財政出動があった。その額57兆円であり、GDP比率で16%にも及ぶ、米国、日本の財政出動はそれぞれ6%、5%に対して3倍ほどの景気刺激策だ。
家電下郷や汽車下郷といった家電製品や自動車の購入補助金が想像以上に効果があった。
先進国と違い、まだ電化製品、自動車を持っていない層の比率が著しく大きい為、効果が非常に大きかった。
内需の拡大が大きいことが世界中から注目されるにいたった。
はたして中国の景気回復・成長が財政出動と為替操作(元安)による過剰流動性の結果のバブルなのか、いつまで続くのか、様々な意見が飛び交っている。
○ボリュームゾーン革命
中国の経済成長が本物でこれから長く続くと言われている理由として内需の拡大があげられる。現在6千万人程度しかいない1万ドル以上の所得者が、2020年には3億6千万人に増加すると言われている。
所得が1万ドル以上を超えると家電、自動車、不動産といった先進国がかつて経済成長した中で活発になった消費活動が見込めるのだ。そしてこのようなゾーンをボリュームゾーンと呼んで各社重点的に攻略を狙っている。
ボリュームゾーン層が大幅に伸びることによってもっとも恩恵を受けるのは中国メーカーである。
先進国メーカーは先進国の富裕層を重点的に攻略するためにハイスペック、高価格、高品質、多様化したニーズに応えられる豊富なオプション機能に開発とマーケティングの重点を置いてきた。
ところが、ボリュームゾーン層が必要とするのは、画一的で低価格な製品なのだ。日本でも高度成長期に売れたものを思い出してほしい。
日本で30年前に売れた品質のもので良ければ中国で低価格で大量生産することができてしまう。
○中国の不安要因
中国が順調に発展しボリュームゾーンが拡大することが前提であったが、その前に沈没する可能性も議論されている。これまで中国は先進国向け輸出で外需依存であったが、それは為替操作による元安が競争力の源であった。外貨準備高はドルベースで膨れ上がった。そして中国人民銀行(中央銀行)は2兆ドルを抱え、人民元を大量に発行していると言われている。非公表なので実態は不明だ。だが事実、銀行の過剰融資により過剰流動性が発生している。
政治的にも少数民族を力で抑えているため、いつ紛争や革命が起こるかわからない。
しかし、中国人の経営者達と話していると誰もそのような不安は口にしない。高景気で完全に浮かれ、まるで日本のバブル期を見ているような気がした。
これから正社員も賃金が上がることは期待できない。他国で同じ能力の者が低賃金である以上グローバル社会ではアービトラージ(裁定)が発生してしまう。
安い賃金のところに業務を持っていくという流れは加速している。日本でも金型や機械の技術者よりもアービトラージに時間のかかるコンビニの店員のほうが賃金が高い状況になりつつある。
さて、賃金に上がらない中では家計の資産と出費をを大幅に見直す必要がある。
●家計のバランスシート
まず資産状況に関して言えば、負債(住宅ローンなど)があれば負債総額と資産の時価総額を比べてみよう。時価資産が目減りして負債額より小さくなっていれば家計は債務超過である。そのような状況であれば収入が途絶えれば自己破産しなければいけない状況だ。企業でも債務超過は倒産の一歩手前だ。
極論を言えばキャッシュフローが金利と元本返済以下の資産と時価が減少してしまう資産は自己満足の資産と言える。ほとんどの人の資産はエゴだ。
●P/L
企業の売上にあたる賃金やその他収入はこれからは上昇が期待できないという前提で考えるべきだ。そうなったとき家計は成り立ちますか?
支出を見直すべきだ。支出を分類してみよう。
(1)必需品の購入
(2)ぜいたく品の購入
(3)投資・貯蓄・自己啓発の支出
(1)は減らせない最低限の支出だ。できる限り支出をこの範囲に抑えたい。ただしこの中にもぜいたく品があるかもしれない。
例えば家賃だ。もっと小さい家にすれば良い場合が多い。
つぎに大きいのは生命保険だ。これはほとんどの家計で実は必要が無い。ハイリスク(ハイレバレッジ)の金融商品であるだけでなく、リターンがリスクに比べ低いというギャンブル商品(運が悪ければもらえる。しかも自分以外が。)と思った方が良い。
(2)はできるかぎり減らす支出だ。身の丈に合っていない生活をしていないか見直してみるべきだ。
車は必要なのか?車は資産計上されているため出費が無いように思えるが保険もメンテナンスもガソリン代もかかる。しかも時価価値は購入時よりも確実に減っている。
習慣も見直すべきだ。
タバコ、酒、ビールはぜいたく品だ。パチンコ、競馬はさらに酷い。ファッション服や宝石もぜいたく品だ。
毎日コンビニに行く習慣があったらそれも見直すべきだ。定価販売のコンビニでなく100円ショップ、ディスカウントストアに行く習慣に変えるべきだ。
(3)の支出は能力次第だ。しかし投資、自己啓発がなければ収入を上げることも資産を増やすこともできない。特に自己啓発で資格取得や知識習得は小さいリスクでリターンが大きいと思う。
自己啓発が少ない割に、子供に対する投資が過剰な親が多すぎるのが現状だ。実は子供に対する教育投資というのはリターンがそんなに期待できないし、コントロールも難しいと思う。もちろん子供の将来は大切だが、まずはちゃんと大学卒業までの教育をさせてあげることを考えるべきだ。過剰な教育投資によって家計が崩壊しては元も子もない。
共生者という言葉は警視庁が出したらしい。これまでヤクザ、フロント企業が株式市場に入り込んで仕手戦により一般投資家から金を巻き上げていたことは良く知られているが、最近では本物の金融のプロの連中、すなわち証券マンや投資銀行マンがヤクザな連中と金融市場、事業会社とのパイプ役になっていることから共生者と呼ばれることになり厳重に警戒されているようだ。
本書では、90年代から仕手プロの連中がどのようにボロ株会社と共生してきたか、また最新の手口まで非常に詳しく書かれている。筆者は長年証券業界に従事し仕手プロとの交流も深く、またヤクザの脅しにもあったりとかなりあっちよりの方らしいが、だからこそ知っている深い闇について知ることができる。
90年代の仕手はだいたい企業側と仕手側の両方にメリットがあった。企業側は赤字経営で資金繰りに苦しく株価は100円以下のボロ株ときている。それでも企業再生をしたいと目論む。仕手側が資金調達に応じるが企業側の収益を配当などという形で返してもらおうなどと当然思っていない。株価の上昇によるキャタルゲインで回収というのが全てだった。要するに損をするのはその他の株主、一般投資家ということだ。資金調達と企業側の発表リリースをたくみに使い提灯を上げ、売り方(空売り連中)を欺き、いかに高株価をつくるかといったテクニックと手口がそこにはあった。
2000年以降は仕手の手口は大きく様変わりした。資金調達に絡み、海外タックスヘイブンの投資ファンドによる出資スキームや空売りによって株価下落で儲けるMSCBの手口や市場外取引だ。企業側も資金調達により延命することができる。
ここでも損をするのはバクチに手を出す一般投資家や既存の株主だ。
本書では、仕手のプロを実名を出して、その生い立ちから社交まで詳しく書いている。そして更なる最新の手口にも触れている。
ギャンブルで確実にもうかるのは胴元だと言われる。株式市場がギャンブルならその仲介をしている証券取引所、証券会社が胴元ということになる。
取引が活発になれば手数料収入が増えるからだ。そんなこともあってか徹底的に取り締まれなかったり、共生する道を歩む者も多いのだろう。
仕手銘柄には手を出すと大やけどをすること間違いなしだな。