企業の投資判断材料として、ファイナンス理論としてこれまでNPV、DCFを紹介した。
NPV法(Net Present Value)
DCF法(Discounted Cash Flow)
ファイナンス(数学的)として非常にわかりやすい理論であった。しかし問題点もある。NPVでは将来の戦略の変更が考慮されていないのだ。現実の投資(設備投資)においては、経営状況によってうまくいかなければプロジェクトの短縮、撤退、うまくいけばプロジェクトの拡大、延長といった戦略の変更の意思決定を行うことができる。
リアルオプションは、そのような将来の戦略の変更を考慮した、投資判断を行うファイナンス手法である。
リアルオプションはオプション理論を取り入れている。
デリバティブ・オプション理論で本来欠かせないブラック・ショールズ・モデルは今回は扱わず2項モデルで見てみる。
※オプションとは、ある資産を一定期間中(行使期間中)に、あらかじめ決めた価格(行使価格)で買う・売る権利である。
例)初期投資に1500万円必要なプロジェクトがあるとする。この設備投資によって平均して毎年200万円のCF(キャッシュ・フロー)が得られる。但し、CFは1/2の確率で300万円であり、1/2の確率で100万円である。
資本コストは10%である。
【NPVの場合】
書き公式を用いる
n CFn
現在価値=Σ――――――――― -I
n=1 (1+r)n
ここでNPVはn=0からn=∞(無期限)で考える。
NPV=MAX[(-1500+Σ(200/1.1)),0]
※MAX[A,B]はA、Bの大きいほう。この場合投資をするか、投資をしないか(しない場合0)
NPV=-1500+2200=700
でNPV>0なので投資をする。
【リアルオプションの場合】
プロジェクトの開始を延期するというオプションがあるという前提である。
つまり、コール・オプション(行使価格1500万円、行使期間1年間、一設備投資当たりのCFを見て投資を行うか判断する)
プロジェクトを実施すべきかどうかという判断を1期遅らせて、投資をするかしないか判断する。
ここでNPVはn=1からn=∞(無期限)で考える。
リアルオプション
=1/2*[MAX((-1500/1.1+Σ(300/1.1)),0]+1/2*[((-1500/1.1)+Σ(100/1.1),0]
※1/2づつの確率(期待値を反映させて意思決定を行っている)
=1/2*[1800/1.1]+0
※CF=100の場合、現在価値に割り引くとマイナスのため投資を行わない。
=818
NPVとの差は118万円である。
この差は投資判断を延期するオプション(コール・オプション)があるか無いかの差である。NPVでは現時点における予測のみで投資判断を行っている。CFが100か300のどれかわからないという非確実性の高さがリアル・オプションの現在価値の高さに繋がっている。
リアル・オプション―投資プロジェクト評価の工学的アプローチ | |
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