短期間で大企業に成長した企業は沢山あるが、それらの会社に共通するのは何だろうか。もちろん、売上の急激な増加だ。しかし、それだけでは急速に成長することはできない。
例えば、あなたが技術者で退職金と貯金1000万円を元手に製造業のベンチャーを起業したとしよう。
ガレージで起業するとしても、販売する製品をつくるにあたり工具だと検査機だの設備投資が必要だ。また、その製品の材料や部品を調達する必要がある。新しくできた会社の与信(信用力)は無いため、調達前に全額現金での入金を要求されるだろう。
そして、念願の製品をつくったとする。それを大手メーカに販売するとして(できたばかりのベンチャーの製品を大手メーカが買うことはまずないが・・)、その会社は手形120日などと長い支払方法になってしまうだろう。最初の1000万円を使い果たしていたとすると、現金が入ってくる半年以上先までどうやってこの会社は食いつなぐのだろうか・・・在庫も余分に用意しておかないといけないのだ。
このような商売では、常に現金が先に無くなり、後から金が入ってくる。このケースでは当然半年以上の運転資金を別途用意しなければビジネスは継続できない。
さて、別の例である衣服販売店を考えてみよう。この会社は祖父の代からある潰れかけた呉服販売店だったが、若者が後を継いでファストファッション販売店にしたとしよう。
経営者となった若者のセンスで衣服問屋から新しい服をどんどん仕入れる。支払はこれまでの取引通り120日手形だ。他方、改装した店で、センスあふれるこれらの服はどんどん売れていったとしよう。客は現金で買い物をするのでどんどん現金が入る。
つまり、この業態では運転資金は不要でむしろ半年以上の運転資金が常にある状態だ。この資金を元手に新しい店をどんどん開店することができる。
これは現実に起こっている話なのだ。昔はダイエーに始まり、xxカメラ、ユニクロ、Amazon.com、ネットベンチャー。これらの共通点はキャッシュフローが常に良い経営環境を利用して成長し、その成長にレバレッジを掛け銀行から借金をしたり、上場したりしてその資金を元手に更に会社を大きくしていく手法なのだ。
売上高利益率がプラスである限り、キャッシュフローが常にプラスの経営は規模の経済を追い求め売上規模を大きくすることが経営の安定にもつながる。
他方、売上高利益率がどんなに高い製造業であっても、キャッシュフローがマイナスの経営環境では、相当大きな資金準備が必要となってしまう。
最も、売上高利益率は経営指標としては意味を持たない。以前も書いたが、重要なのは投資利回りであり、企業においては自己資本税引後利益率もしくは総資本税引前利益率を見ることであり、例えばそれらの数値が安全資産の国債より低ければ投資に値しない。
さて、起業家はこの「資金繰り」の重要性は常に頭に入れて置かなければならない。ナニワ金融道でも常に資金繰りに追われた零細企業の社長が登場していた。初回の話では金を借りに来た社長に金を貸すときに、金貸しは1万円札を抜き取って札束を渡した。銀行閉店までに入金しないといけない社長に、数える時間など無いと見通してのことだ。
その金でキャバクラに行き罪悪感を感じる主人公に対して、金貸しは「金に色は無い」ことを説くのだった。
また、子供の頃テレビのドキュメントで見た光景が今でも強烈で忘れられない。
製品を抱えた店が資金繰りに困り、最後にバッタ屋に頼み込んだ話だ。余裕をかまし約束の時間より遅れて到着した年老いたバッタ屋は愛犬のドーベルマンを引き連れて倉庫の商品を眺めている。店主は時間が無い。そのことを知っているバッタ屋は焦らす。店主がバッタ屋に近づいた時、ドーベルマンに噛み付かれそうになる。
最終的に二束三文の安値で現金で製品を買い取られた。
店主にとって倒産は死を意味し、何よりも怖かったのだろう。こうしてバッタ屋は現金を持ち歩き、倒産間近の会社から安値で仕入れて販売する。こうやってメーカ直営の町の電気屋は姿を消し、バッタ屋は大企業となっていったのだ。
昔テレビに出ていたバッタ屋の宮路社長を覚えているだろうか?小柄だが常にスーツケースに現金の束をいつも用意していた。常に現金で仕入れていたようだが、同氏死去後にすぐ会社は潰れてしまった。