マネーロンダリング、永遠の旅行者に続く橘玲の待望の3作目はタックスヘイブンだ。
出版社勤務の後に、ゴミ投資家シリーズで海外金融機関を紹介し、今は作家として活躍している橘氏の小説は、プライベートバンク、風俗業など中小企業の脱税、そしてヤクザの登場が特徴的だ。
かつて、「マネーロンダリング」で小説家デビューした時には、その斬新な脱税手法が話題となった。何しろ、実際に山口組がシノギをこの手法で海外のプライベートバンクに逃避させていたのだ。それにより、橘氏は警察から「山口組の指南役」ではないかと疑いをかけられたらしい。小説を出すたびに、最新の海外金融機関を利用した高度な脱税手法を紹介しており、出版後しばらく経つとその手法は使えなくなる。
今回も、主人公で外資系金融機関を退職してフリーの金融コンサルタントになった古波蔵は、風俗業の社長の脱税指南をする。外資系金融機関がこれまで行ってきた富裕層向けの節税スキームはアメリカ当局の厳しい追求で使えなくなってしまった。スイス系銀行はもはや顧客守秘義務を守らず、アメリカに顧客情報を渡すことで生き残る道を選択した。
古波蔵は外資系プライベートバンクを辞め、20代で一生遊んで暮らせる金を持ちながらも、不法な脱税指南を職業として生きている。
と言っても、国内の現金を海外に送金ではなく、実際に運ぶ手伝いをしている単純な手法だ。また、死亡したファンドマネージャーの美しい妻・紫帆は、高校時代の同級生で翻訳の仕事をしている牧島と死亡現場を見るためにシンガポールを訪れ、亡き夫の秘密を知り、狙われることとなるのだ。
ストーリーは違うものの、雰囲気は一貫して橘玲の小説と同じだ。そこに魅力を感じる反面、登場人物のキャラクターの独特の性格に違和感も感じる。
何しろ、これまでの小説もそうだが、登場人物は決まって、独身で組織に属さず、何かしら高度な知識を身につけ、自由だが孤独に生きているからだ。フリーランスで生きるということはそのような面があるのかもしれない。それにしても、誰にも頼らず、友人を持たず、誰にも依存しないという、サラリーマンの世界ではあり得ない特徴を持っている。
組織に属さずに生きるというのは、当たり前だがこのようなことなのだと毎回思い知らされる。過去の作品も再び読みたくなってきた。