›3 04, 2013

振込詐欺、請求代行業者の裏事情

Category: 日々雑感 / 0 Comments: Post / View

「架空請求の詐欺師に電話してみた」という内容の動画(録音)はYoutubeに沢山アップロードされている。
携帯電話などの迷惑メールには、出会い系の勧誘メールから、このような振込詐欺のメールが多く届く。
アダルトサイトを閲覧したと言いがかりをつけて請求するこのような商法は、実は90年代にも存在し、アルバイトをした経験があるのだ。

まだ学生だった筆者は高田馬場にある学生向けのアルバイト斡旋所で、時給が突出しているアルバイトを見つけた。
条件としてパソコンが使えることとあったが、早速応募してみたのだった。

アルバイト面接はその会社で行われたのだが、場所は新宿歌舞伎町近くの区役所の傍の雑居ビルの1室だった。
中年のパソコンオタク風の社員に面接で聞かれたのは、パソコンにいかに興味があるかだった。とても怪しい雰囲気の事務所だったが、時給の高さからこのアルバイトをどうしてもやってみたいと思い、パソコンの経験はほとんど無かったが、熱く語ることで採用された。

この会社の社長は30歳位の色白で小太りで人柄のよさそうな人で、これ以外にパソコンオタクの中年社員、20代後半のニート風の社員2人に、理系大学院の自分のようなアルバイトがいた。

仕事の内容は、中年社員に教わった。Q2ダイヤルの利用の回収というのが業務内容というのは後で知ったことであるが、電話番号と名前、住所、請求額がぎっしり書かれた紙が山積みになっているのだが、それをデータ入力するという仕事だった。中年社員は元SEらしく、パソコンにプログラムを組んでいて、データを自動にダイヤルする簡単なシステムをつくっていた。
データ入力をするのは大変なため、パソコンの読み取りソフトを使ってスキャナから入力する方法を教えてもらった。但し、ソフトの読み取り精度がいまいちなため、間違っているところを手作業で直すのがアルバイトの主な仕事だった。いたって簡単な内容だった。

Q2ダイヤルをテレクラのように利用するサービスが人気だったようだが、NTTは代金回収をまったく積極的に行わない。NTTの代行で支払わない利用者に対して、業者は自力で回収しないといけないのだ。そこで、この会社に回収を委託し、回収料金を折半しているようだった。

入力したデータをプログラムでモデムから自動ダイヤルし、使われている番号かまず確認する。不思議なことに半分近くの番号が使われていないか、人違いだった。それをデータに追記することをやった。

その後、使われている番号の持ち主に対して請求額と振込先を書いた手紙を郵送するのだ。その文章も中年社員が社長と相談してつくっていたのだが、ワープロソフトのやたらに太い毛筆フォントで記入し、会社の社長の名前は確か「鬼瓦 権三郎」とかそんな感じだったが、フォントと名前を変えるだけで随分と怖い雰囲気になるものだと感心した。

郵送すると事務所に電話がどんどん架かってきた。その対応を2名の若い社員が対応するのだが、非力に見える彼らが支払いを拒む相手に対して、馬鹿でかいどなり声を上げ回収を迫るのだ。パソコンの単調な入力作業で居眠りしていた大学院生アルバイトは、怒鳴り声を聞いて飛び起きた。ここらへんの怒鳴り方はYoutubeにあるような感じ以上だった。

電話かけてきた人のほとんどが支払っていたようだ。何しろ実際にQ2を利用して支払をとぼけていた連中なのだから自分に非があることがわかっており、支払わないと住所も知られているし、どんな怖い人が実際に回収に来るのかという恐怖もあったのだろう。身に覚えの無い人も怖くて支払っていたのかもしれない。

それでも支払わない人に対しては、更なる催促状や近場であれば赤紙と呼んでいた催促書をポストに入れに行くと言っていた。

中年社員はパソコンのことを知り尽くしており、その知識には驚かされた。カタログが話せ(一体フィリピンパブでいくら使ったのだろうか?)、フィリピン人の女性と結婚しており、昔ラジオ無線の雑誌に取り上げられた記事を大事に持っていた。その彼が言っていたのだが、こういった回収請求に対して支払義務は無いということだった。

歌舞伎町に事務所があることからか、社長のネットワークの広さからなのか、回収以外の仕事も色々来ていた。ある時は、当時大流行した白のBabyGという腕時計が事務所中に積まれていた。プレミアムの付いたこの時計を転売して儲けたようだった。

それ以外にも、裏ビデオを多数仕入れていた。そのうちの1本を誰もいない事務所でこっそり見たことがあったのだが、マスクを被った男優は社長そっくりの人物だった。
使い放題のPHSも仕入れていて、社員は回収の際その電話を使っていた。借金で回らなくなった人物には、更なる借金をさせるそうだ。他のサラ金で借りさせたり、クレジットカードや携帯電話もできる限り多く作らせる。それがこのPHSや使い放題のクレジットカードだった。暫くたつと利用が止められてしまうのだが。

ある日、社長が新しい事業としてアイドルの芸能事務所をやると言い出した。
話を聞くと、かつて有名芸能人を発掘した人物と運命的な出会いをし、彼の持っているネットワークでアイドルを輩出するのだという。しかしそんなアイドルの卵をどうやって見つけるのかが分からないというのでアルバイトを含めて会議をしたのだ。

中年社員がフィリピン人の奥さんの人脈から、ハーフの可愛い子を見つけたがハーフは駄目だと言われた。そこで、自分の友人がナンパが得意だという話をしたら、社長が飛びついてきてかなりの日給で雇ってくれることとなった。

友人は原宿や渋谷でスカウトした。ナンパと違い芸能事務所(仮)の名刺でスカウトをすると、見向きもされなかったようなレベルの子が話を聞いてくれたそうだ。
アイドル候補となった女子高生を見つけ、社長がとても喜んだ。これからは社長の仕事だった。その子の親を説得しないといけない。
歌舞伎町界隈の雑居ビルのワンルームに、銀行の幹部だというその子の親が来て話しが無くなったこともあった。

そんなことが続いたある日、会社が潰れた。その時はわからなかったが、暫くして社長が引っ越した先の都営団地に言って話を聞いたところ、運命的な出会いをしたという人物は詐欺師だったようだ。社長も騙されて破産してしまったのだ。

それから月日は経ち、インターネット時代となり、ダイヤルQ2の回収は無くなり、無差別に送りつける詐欺メールや振り込め詐欺といった犯罪に形を変えていったのだろう。


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