›11 01, 2012

キーエンスが変則決算までして節税する訳

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キーエンスは平成24年税制改正により、平成24年4月1日以降に開始する事業年度より、法人税率が5%引き下がることになることを利用して、1年の決算を2回に分けることで復興税率を利用しておよそ2%の節税を実施した。たかが2%で狡い方法でははあるが約40億円の節税なので定款変更など手間暇かけた甲斐はあるだろう。

しかしグローバル企業は、日本に法人を置く企業でも海外の子会社法人を利用して実行税率を20%近く下げている企業も存在する。

そもそもキーエンスは売上高利益率が非常に高い企業である。これは付加価値が高いということもできるし、原価を下げていると見ることもできる。
どちらの解釈も正しい。

キーエンスの行っている事業は、FAのセンサー、画像処理、レーザーマーキング装置で、いわゆるニッチ産業だ。製造業の多い日本で競争相手が少なかったことや売り先が製造業に限定されていることが原価が下げれる1つの要因である。また、他社は直販を行わず商社を何社も通すという古い日本の商慣行で販売するのに対して、キーエンスは直販である。営業は技術営業で、販売する製品を持ち込み、貸し出し、その場でフィードバックを貰うことができるため、常にユーザニーズを満たす製品開発に活かすことができる。そのため、キーエンスのほとんどの製品は「業界初」というキャッチコピーが付いている。
このような直販体制は板金加工ではアマダが行い、やはり業界をリードしている。

製品自体は高度な技術で作られている訳ではなく、販売方法が独特であることも海外メーカの参入を許さない手法だ。韓国や中国には同じ機能を持つ製品を売る会社が沢山あるが、日本では競争に晒されないで済んでいる。このため高く売れるのだ。日本市場は装置をつくる工場向け製造業もまたガラパゴスなのだ。
電機業界では三星電子やLGはまず最初に日本のTV製品に打ち勝つことに専念し、付加価値が高く市場の拡大するパネル製造、リチウム電池など事業分野を選択集中させて攻略してきた。日本から一部の一流のエンジニアを高い賃金で引き抜き、通貨、人件費、電気代などあらゆる環境が安い場所で製造することで、日本企業の駆逐に成功してきた。
その選択と集中で見逃されてきたのが、キヤノンのカメラ、コピー機市場、ダイキンのエアコン市場、そしてFA分野であるが、今後はそれらの市場への参入やより多くの資源を投下して日本企業を潰しにかかるだろう。

キーエンスが原価が安いのは自社で生産しないファブレスメーカだからだ。これはアップル社がフォックスコンに製造委託して高利益なのと同じことである。
キーエンスは営業マンが価値を創造しているとも言える会社であり、国内製造業においては賃金が最も高い。入社して3年目に年収1000万円を超えるとも言われ、30歳で家が建ち、40歳で墓が建つと揶揄されている。これは過酷な営業管理のため一生働ける環境では無いという皮肉でもある。

原価を非常に低く抑え売上高利益率が高いキーエンスにとって、利益から税金が取られるというのは株主利益に反する。世界的には、株主への収益の向上化のためにあらゆる方法で節税を行っている企業が株主にとって魅力的なのである。その点、投資価値としてのキーエンスには問題がある。
いくら、売上高利益率が高くても、投資利回りが低ければ意味がないのである。そもそも株主からみて売上高は無意味だ。投資した資本に対する利益率こそが唯一の価値である。例えば1億円の資本で1000億円の売上だろうが、100億円の売上だろうが関係ない。1000億円の売上高で1億円の利益しかない会社より100億円の売上高で10億円の利益の会社は10倍の価値がある。

キーエンスは毎期の利益を株主に配当で全て還元する訳ではなく、内部留保している。そのため資本は膨れ上がり、余剰資金は利回りの低い国債をはじめとした金融商品で運用しているのだ。株主にとっては、投資したのが事業の収益性だけかと思いきや一部の有り余ったカネは誰でも買えて利回りの低い金融商品というので泣けてくる。

販売価格は何で決まるのか?100円ショップなどはそもそも販売価格ありきだ。原価から利益率を元に価格を決め、商品普及を目指す企業もあるが、需要と市場規模の決まっているFA業界では、キーエンスは他社との競争価格で販売価格を決めて売って来た。だから売上高利益率が高いのだ。

残念なのは米国のアマゾン、アップル、マイクロソフトのような「ダブルアイリッシュ&ダッチサンドイッチ」http://skillstorage.com/archives/001318.htmlなどの手法がキーエンスは開発していないことだ。だから、こんな狡い方法で節税をしているのだ。

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