›10 09, 2012

生きぞこない…… エリートビジネスマンの「どん底」からの脱出記

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エリートサラリーマンが失業し、多額の借金を背負って鬱病で自殺未遂するという実話である。
あんがい、エリートも生きぞこなって死にそこなった者も大した違いはないのだ。成功者も明日は失業者かもしれないという暗く恐ろしい現実がそこにある。

筆者の北嶋一郎氏は、バブル期に帰国子女として日本の大学を卒業し、IBMに入社する。
当時大人気だったIBMの同期社員はなんと2500人。その中で、入社して1年目にはすでに年収1000万円を突破する。

外資系の大企業でいかに出世するかを考え、狙いを定めた上司に対する徹底したおべんちゃら作戦で、エリートコースに乗ることに成功する。
歯車が狂い始めたのは、PCを売る事業部で働いていた時、その事業ごと中国メーカに売却されてしまったときからだ。

IBMが大好きで、仕事に誇りを持っていたのに、中国メーカになったとたん働く意義を失ってしまう。
こんな会社のために働きたくないと思い、IBMにも戻れないことを自覚し転職を決意する。この時もう40歳を超えている。

人材紹介会社から紹介してもらった会社は、インテル、マイクロソフト、アップル。どの会社にも行くことができたが、製造業であるインテルを選ぶこととなった。
インテルは秘密主義の会社で、隣のデスクが何をやっているかもわからない会社だった。転職してからもIBMの時のような熱意を持って仕事はできなかったのだろう。
不況からリストラが実施され、あえなく退職することとなる。

次に選んだ会社は長く働ける会社が良いとの思いから、日系の富士通を選んだ。ここでは課長という職で年収2000万円で転職した。
課長でありながら、部下を任せてもらえずに部長預かりという微妙なポジションかつ、平机の並んだ日本企業ならではの社風や自由が無い拘束された環境からなじめないままリストラ勧告されるまで過ごすこととなる。
一体何が目的で富士通はこのような高年収で採用したのだろうか?生え抜きでは定年まで達しないような年収だ。しかも仕事は生え抜き社員が微妙な会社の人間関係から成り立たせており、これでは社外からいくら優れた社員を取ろうがうまく活用なんかできっこない。

IBMを辞めてからの2社はどちらも1年も満たない退職勧告だった。

次もすぐに見つかると思っていたものの、いくら待っても人材紹介会社から転職先の斡旋は来ない。
不況に突入し、直近2社を短期間で退職している者に良い仕事は紹介されないという事実を突き付けられるのだ。その後はなんと光通信にまで転職し、あまりのすさまじい職場環境ですぐに退職を余儀なくしている。

これまでのエリートサラリーマンとしてのプライドと浪費が次の転職に高いハードルをつくってしまったのだろう。仕事は見つからず、不眠症になり鬱病と診断される。
金遣いが荒く、持ち家も無いのに1億1千万円の借金をつくっていた。

失業し、アルバイトをやるも続かず、同棲している彼女に食わして貰う始末。没落し、やがて絶望から自分を追い詰め壮絶な自殺未遂することとなる。

死にきれず生還した彼は、エリートサラリーマンだったときには見えなかった友情なんかが身にしみてわかるようになる。うつ病は双極性障害と診断され障害者認定を受けることとなった。今はツイッターで知り合った別の女性に食わしてもらって自己破産を申請し再起を図っているようである。

現在も日本企業の多くでリストラが実施されている。彼と同じような立場にいる人は多いだろう。自殺者は年間3万人を超えている。
今仕事がある人にとってだって決して他人ごとでは無い話なのだ。

それでもこの本は仕事だけが人生では無いことを教えてくれる。人生で本当に大切なのは何かは、大きなものを失った時に見えてくるのかもしれない。

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