›10 05, 2011

失踪日記

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気鋭の漫画家、吾妻ひでお氏の失踪劇の漫画である。
吾妻ひでお氏のことは知らなかったが、圧倒的な人気となった「失踪日記」を読んで感動した。

失踪をしたという経験は無いし、身内にもそのような人はいないが、時たま有名人が失踪して週刊誌で取り上げられることがある。
また、仕事や家庭でのトラブルやストレスから逃れ、いっそのこと失踪してしまいたいという衝動に駆られた経験のある人は多いはずだ。

吾妻ひでお氏は、事情については詳しくはわからないが、家族に何も告げず失踪した。
失踪中の初期の行動はホームレスそのものだ。

林の中にテントも張らず寝泊りし、ゴミや墓場をあさり、吸殻のシケ煙草を吸う。
誰ともコミュニケーションなどとらず、孤独を楽しみ、何も縛られない生活を続ける。

このような社会の底辺の生活でも立派に、それも社会の中で漫画家という地位と稼ぎのある頃よりも、幸せな生活を続けたのだ。

その後、日雇いの肉体労働で稼ぐこととなる。漫画家の虚弱体質だった体はみるみる筋肉質に変わり、健康体へと変化を遂げていく。

以前、南千住近くにある山谷と呼ばれるドヤ街を探索したことがある。
山谷には様々な事情を抱えた孤独な者が集まる場所である。この地域には一泊2千円程度の安宿が乱立し、昼間から酒をあおり、チンチロリンや花札をやったり、寝転がったりする社会の底辺の連中を至る所で見ることができる。

彼らは、日雇いの肉体労働や生活保護を受けながら、多くのものが失踪状態で、内輪の人間関係の中で生きているのだ。
この場所に足を踏み入れたときには、さぞかし悲惨な場所なのだろうと思っていたのだが、安住すれば住み心地が良いのかもしれない。

もちろん彼らのような生活は送りたくは無いが、社会や家庭から逃げたくなったときには行く場所があるのだと知り、妙に安心したものである。

吾妻ひでお氏の失踪物語は、その後アルコール依存症による強制入院の話へと展開していく。
家族に愛想をつかれた訳ではないようで、アルコールの怖さを知ることができる。

普通の社会人が一生のうちに彼のような経験をすることができるだろうか。日頃見下して見ているような連中の中にも希望が存在する。
体験できないことが漫画を通して疑似体験できる醍醐味がこの本にはある。

社会人になる前には、いつかは1年くらいかけて世界一周してみようと思っていた。しかし、それは儚い夢だった。
ビジネスマンは常に走り続けなければいけない。できたのは、会社を辞めて海外留学をして学生時代に戻れたことだけだった。そんな体験も普通のビジネスマンはめったに経験できないだろう。

会社を辞めて転職するときには、3ヶ月くらいはインドや東南アジアを放浪してみようと思っていた。これはもしかしたらできるのかもしれない。
しかし、よほどのことが無ければ、ビジネスマンにとって休日以外に社会から逃れることはできないのだ。ましてや家庭から逃れることはもっと難しい。


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