›8 01, 2011

大震災の後で人生について語るということ|橘玲

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この本は、私たちの世界を変えた「2つの災害」について書かれています。ひとつはもちろん東日本大震災と原発事故、もうひとつはいまから14年前に日本を襲い、累計で10万人を超える死者を出した「見えない大災害」です。

この「見えない大災害」によって戦後は終わり、日本は新しい社会へと移行しはじめました。しかしほとんどのひとはこのことに気づかず、3.11によってはじめて、私たちはこれまで目をそむけていた人生の経済的なリスクに正面から向き合わざるを得なくなったのです。「まえがきより」

衝撃的なまえがきで始まる本書は、橘玲の知と思考の集大成と呼べる。

これまでの日本の経済成長を基盤とした我々の生活は、国の成長が止まり経済衰退と人口減少が始まることによって価値観の変化が求められている。
日本企業や産業は国外に流出し、雇用機会が減少する状況が続いている。国の借金は膨大に膨らみ、少子高齢化による社会保障の負担増に対して、どのように解決すればよいのかその方法さえもわからない現状がある。

戦後の日本経済の発展は奇跡的ではあったが、もはやその経済力を発揮することができなくなりつつある。
我々の生活は依存することによって成り立っていた。それが4つの大きな神話として本書では問題提起されている。

不動産神話、会社神話、円神話、国家神話。

どれもが当たり前のように安全で、生活の基盤を支えると思ってきたものだ。しかし、この神話の前提である日本の経済成長は崩壊しつつある。
その暗澹たる日が訪れた時、我々はどのようにして生きていけばよいのだろうか。

製造業中心の日本の大企業は海外に生産を移管させることにより、国内産業の空洞化とそれに伴う高い失業率はやがて内需企業であるサービス産業をも不況へと向かわせることとなる。リストラや倒産にあった失業者を受け入れる企業はもはや国内には存在しない。人口は少子高齢化による現象のみならず、労働人口の国外流出も見られるようになり、立ち並ぶ高層マンションは売れなくなり、空き家が増加する。景気対策の国債発行は償還のめどが立たず借金は膨大に膨れ上がる。為替は大きく変動し、円を基軸とする国内産業は大きな痛手を蒙る。そして膨れ上がった社会福祉に対して拠出するあてがもはや無くなるのである。

本書は未来を予測する本ではないが、新しいパラダイムで自立した生活を如何にして獲得するか、その方法を提示してくれる。

不動産価格は上がり続けると思われてきた。何よりも安心な資産であり、賃貸より持ち家は得で、35年もの借金をしてでも購入するのが当たり前のように思われてきた。
会社は解雇できないし、潰れない、年齢とともに賃金が上昇するのが当たり前と思ってきた。
資産の全てを日本円をベースとして保有するのがこれまで最もリスクが低く、高いリターンを得ることができた。
国家は破綻しない。定年後は年金で暮らし、病気の時など生活の保障は国が手厚く面倒を見てくれるのが当たり前だと思ってきた。

しかし、パラダイムの変化は、やみくもに不安や絶望に陥れるだけではない。誰もが持っている個人の能力を発揮する機会と日本を中心とし考えず世界全体で資産運用を考えることで、国家や会社に依存せず自立して生きる道は開かれる希望があることを本書は教えてくれる。


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