›4 07, 2011

マイケル・ムーア「The Big One」

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左翼的ドキュメンタリー映画監督のマイケル・ムーアの映画「The Big One」は今から10年以上前90年代後半の米国を映し出している。
映画では、米国製造業(自動車業界からスナック菓子からナイキまで)の工場閉鎖・海外への工場移転による地場産業の崩壊、失業者の増加、そしてそれに苦しむ人々を映し出している。
映画「ロジャー&ミー」ではGMの城下町フリントの崩壊を描いていたシリアスな雰囲気だったが、この映画ではムーアの皮肉たっぷりでユーモラスな公演で爆笑シーンが半分ほどある。東南アジアの劣悪な環境で靴を作らせて悪評が高いナイキの社長も登場するが、ムーアとナイキ社長のやり取りが漫才のようだった。

90年代後半の米国は「雇用なき経済成長」などと呼ばれ、失業者が増加する半面、景気回復、経済成長が見られた。
これは今後の日本を明示しているのではないかと思ったのだ。

ムーアが糾弾するのは、企業が業績が良いにもかかわらず、工場を賃金の安い海外へ移転させ、従業員を解雇することだ。
大企業経営者は巨額の報酬を得るが、失業者や低賃金の労働者は貧困で精神を病む。米国では株式を資産として持つ家庭が多く、不動産価格も上昇していたので資産インフレによる所得の無い資産形成ができたのかもしれない。
いずれにせよ、多くの失業者がいたものの90年代は米国の経済は繁栄した。

現在では米国の失業率は90年代の2倍ほどになっている。また不動産も株価も低迷し資産デフレが起こっている。

日本では、デフレは長期間に及び賃金は下落が続いている。そして大企業を中心に製造拠点をより安い他国への移転を進めている。
アメリカのようにドライに解雇・レイオフができないため、業績悪化時に希望退職を行ったり、工場閉鎖では他地域への移籍を進めている。これは形式上はグループ内で雇用の確保などと言っておきながら、地元から離れられない従業員がほとんどと見越して行っているケースが多々ある。

むしろしわ寄せは日本の産業構造においては下請け企業の切り捨てという形で行われている。
地方経済は疲弊しており、失業者に新たな職場はほとんど存在しない。
大企業においては、社内失業者も多く存在する。

日本経済は、震災前まで回復基調であった。これからは米国の90年代のような雇用なき景気回復が日本でも起こるのではないかと懸念される。


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