›10 08, 2010

これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学 サンデル教授

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ハーバード大学で最も人気のある授業が「Justice(正義)」で、その授業が世界に公開され、日本でも東大で授業が再現されNHKで放映され大きな話題となっている。
授業の内容は、日本では哲学や倫理学とされているものであるが、日本では哲学者のそれぞれの主張や理論が紹介されるのに対し、この授業は学生との対話を通して考えされる授業であるのが特徴だ。サンデル教授の授業の進め方のうまさ、質問の仕方、高いレベルでの学生との対話がとても面白い。

授業の内容はこんな感じであった。

教授「イチローの年棒は15億円で、学校教師の400倍、オバマ大統領の42倍だ。金額は大きすぎないか?」

これに対して学生が意見を主張する。

学生A「イチローの仕事はオバマ大統領に比べて責任感が小さい。オバマ大統領は核爆弾のボタンを押すこともできるし、国民に対する義務も大きい」
学生B「イチローの仕事はエンターテイメントであり、オバマ大統領の仕事は税金による賃金である。・・・・・」

このような感じで人の意見を聞くことで、深く考えていくと資本主義の根本哲学にたどり着いていく。
そして、例えばイチローの年棒は大きいのだから、税を多く取って分配すべきかどうかという議論に展開していく。

学生C「収入が高いからといって、財産を奪い取ることは国家の役割を超えている。個人の自由を侵害する行為だ。」
この学生はリバータリアンの立場を取る。
学生D「10億円の収入がある人から5億円徴収しても、その人にとってのダメージは大したことはないが、その金を分配すると助かる人が大勢いる。」
この学生は最大多数の幸福を目指す功利主義の立場を取る。

このように様々な難しい道徳や倫理や正義について考えさせられる質問が飛び交い、学生との対話は白熱していく。

質問に対する正しい解答は存在しない。時代や国によっても違うし、政党によっても違う。自分がどの立場を取るのか、生きる上での決断や判断においてどのように意思決定をするのか、それは常に問題意識を持つことなのだと思う。

NHKの取材も見たが、記者は「広島への原爆投下は許される行為なのか」などずいぶん鋭い質問をサンデル教授にしていた。YES/NOでは答えは当然でないのだが。

考えさせられる質問が多い。例えばこんな感じだ。

殺人に正義はあるか?
命に値段をつけられるのか?
「富」は誰のもの?
この土地は誰のもの?
動機と結果 どちらが大切?
愛国心と正義 どちらが大切?

そういえば15年位前にも物語形式の哲学書「ソフィーの世界」が流行ったなぁ。


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