›6 10, 2010

世界の工場「中国」の変化~人から自動化への流れ|Foxconn事件

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中国が世界の工場になったのは誰もが認めるところだ。その中でも特に象徴的な中国の生産工場として有名なのがFoxconnだ。
台湾の鴻海グループ 「富士康(Foxconn)」はブランドイメージは一般消費者にはほとんどない。それは、自社ブランドで生産を行っておらず、EMSと呼ばれる製造の受託を事業としているからだ。
メーカはファブレスという流れが主流になってきており、自社で製造・生産をせずに外部企業に委託する。そうすることで自社は商品の企画・開発といった上流工程と販売といった下流工程に集中することができる。スマイルカーブと呼ばれ製造プロセスの付加価値は低いいう議論が盛り上がったこともある。

さて、Foxconnが生産している主要なメーカは、アップル、デル、任天堂、ヒューレットパッカード、ソニ、ー・エリクソン、ノキアといった世界のトップブランドがひしめく。メーカの製品はどこの会社でつくったかなど書かれていないが、自分の手持ちの製品のいくつかはFoxconnでつくられたものだ。

このEMSという業態、とりわけFoxconnは中国の発展と共に90年代後半から飛躍的な成長を遂げた。話題となったシンセン工場は広大な土地に工場があり、労働者の数はなんと42万人とのことだ。中国の他の場所にもFoxconnはいくつかあるが、その規模に驚かされた。数年前、ある地域でFoxconnの看板の工場を見たが、その通りの遠くのかなたまで工場建設を進めていたのに驚かされた。敷地内には生活に必要な商業施設もあるという。もはやそれだけの人数が勤めているというのはアイスランドの人口30万人を超え、地方都市や小国にも匹敵するコミュニティだ。

そのFoxconnにおいて自殺者が相次いだことから一躍脚光を浴びた。会長が取材を応じている間にも自殺者が出て、14人もの自殺をはかる従業員が出たということでアップルや任天堂からも懸念が出た。相次ぐ自殺者を防ぐために飛び降り防止ネットが張られるなどの対策も話題となった。そしてFoxconnの低い労働賃金と労働環境が注目されることとなり、賃金引き上げを短期間で決定するに到った。
よくよく考えると、これだけの大人数の労働者がいるのだから自殺者の数というのは多いのかわからないが、労働環境以外の問題もあるのではとも思ってきた。

Foxconnの強みは売上高の急激な成長に伴う労働管理であり、金融危機後の需要の落ち込みの際には労働者を大量に解雇などしたことも伝えられた。
労働集約業務に頼っており、マージンとして取れる利益は非常に低い為、徹底した労働管理が求められるというのは想像できる。

他方、ホンダ佛山工場においても現地日本人との賃金格差に対する不平・不満からストが実施され、ホンダもまた賃金を上げざるを得なくなった。
このように中国工場では労働賃金がインフレとなっていく。大量の人口と農村部の貧困層を抱える中国においても労働者の数には限りがあり、これまでのように低賃金・劣悪な環境での採用はできなくなっている。

先日、TVでユニクロの上海開業のドキュメンタリー番組を見たのだが、300人採用したオープニングスタッフのうち60人もの退職者が出て現地責任者が焦っている場面があった。退職の理由は、競合企業のほうが賃金が高いためという理由があったが、驚いたことに「残業ばかりで自分の時間が無い。親も辞めろと言っている」と訴えた従業員がいたことだ。中国では残業の賃金は厳しく、かなり高額となるため誰もが残業をしたいものだと思い込んでいた。しかし上海のような都会で一人っ子政策で育てられた若者は、賃金よりも自分の時間を重視している者もいて、親も容認しているというのが衝撃的だった。

このような事例から、今後の労働集約的な工場生産は中国では非常に厳しい局面を迎えると思われる。

中国経済は、GDPに占める、官民の設備投資が200兆円を超え、47%と破格に大きい。日本が100兆円を下回るのに対して2倍以上もあり、これが中国の世界の工場をに無い、年率10%を超える経済成長につながってきた。

今後は労働者に頼らない生産というのが重視されるだろう。日本が世界的に技術優位にある自動化技術、産業用ロボットというのが中国の工場に展開されるようになると大きな期待がされている。企業のオーナーも労働者という不安定なコストよりも自動機、ロボットといった資産を重視する国柄である。
ただし、リードタイムが短い製品というのは労働者による生産が非常に短期に立ち上がり、管理がしやすいという面もある。

中国は世界の工場という立場を貫きとおすのか、その地位を労働賃金の安い発展途上国に譲ることになるのか注目しているところである。


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