›9 12, 2009

経常利益率35%超を37年続ける 町工場強さの理由

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エーワン精密という工作機械につかう部品(コレットチャック)を製造する中小企業の創業者の話だ。
売上高20億足らずだが、経常利益は40%という会社だ。これが町工場だと創業者が主張するので衝撃的数字に思えるかもしれないが、読み進めると町工場では無いのではないかと思った。
いわゆる町工場というのは競争力が無く、価格交渉力も無く、仕事は親会社と呼ばれる資本関係の無い大企業からもらう会社をイメージする。
しかし、エーワン精密は、競争力のある技術力があり、市場シェア6割も占め、取引先も多く、価格は自社が決めている。
見たくれは工作機械で加工をしている町工場でも、これはちゃんとした会社だということがすぐにわかる。

それにしても製造業で利益率が常に40%以上というのはキーエンスやコーニングのようであり、小学校しか出ていない(実際には二十歳から夜間中学に働きながら通った)のにすごいと思った。思えば松下幸之助なんかもちゃんと教育を受けた訳では無いのだが。

その筆者が経営の知識なんか何もなく、ただ自身がやったことを書いているのだが経営のプロの書いた本なんかよりもよっぽど役に立つということは断言できる。

良い技術を他社よりも早く手にいれ競争力を持ち、客の要望にどこよりも迅速に応え、価格は自身が決める。景気には波があるのだから、どんなに好景気でも浮かれずにコスト低減に努める。

経営を勉強したものでも、なかなかこれが忠実にできてないのだということを改めて認識させられた。

そしてジャスダックに上場するのだが、エーワン精密のような会社が上場するのが不思議でならなかった。上場する必要が無いからだ。
つまり中小企業の上場の大きな目的である社長の借金の個人補償から外れることというのは無借金だから関係無いし、株の売却による創業者利得というのも興味が無さそうだ。事実、株式公開時から自身の持ち株を売却していない。

その他にも、信用力の向上というのも市場シェア1位で既に信用力があって必要なかったというし、知名度の向上も必要なかったという。

筆者が言うには、町工場でも上場できるということを知らしめたかったという意地だったのだということがわかる。
実際に上場した直後は後悔したようでもある。上場して間接業務が増え、監査法人にも多額の報酬を支払う必要があるからだ。利益率が高いことが公開企業のため取引先に見られることによって値下げ要求が来るのではないかという心配も当然ながらしていた。(驚くことに値下げ要求は1件もなかったそうだ!)

良いこともあったということがわかるが、上場したメリットは果たして大きいのだろうか?良い会社だとは思うが、投資家の立場からすると高い自己資本比率は株主資本を有効に活用していない点が不満に思えるし、利益率はそもそも関係無い。投下資本利益率があくまでも大切だ。成長性の観点から考えても不満が残る。

さて、本のタイトルもそうだが町工場というやたらこだわっているなと思った。町工場と比べるからすぐれて見えるだけなのではないか。町工場だったら潰さない経営をしているだけで褒められるのだから。

これから起業しようと持っている者、経営者にはとても良い本である。しかし町工場でもう存続するのも大変だとか、借金は金利も払うのも大変だとか、存続意義が無くなってしまったところとは別次元で考えないといけないと思う。


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