›7 20, 2009

キーエンスが日立の時価総額を上回った

Category: イノベーション / 0 Comments: Post / View

10兆円の売上高を誇る日立製作所がたかだか2000億円にも満たない売上高のキーエンスに時価総額が抜かれてしまったのはある意味象徴的でき事であった。

キーエンスはほとんど一般消費者は直接買うことは無い製品をつくっている。具体的には製造業のものづくりの自動化を支援する製品(FA:Factory Automationと呼ばれる部類)をつくっている会社だ。

電機業界が過去10年においてトータルで投下資本に対して利益が上げられなかったのに対して何故、キーエンスはとてつもなく高い利益率を毎年上げることができるのか。

まず、キーエンスの売上高の比率は圧倒的に日本国内が多いことが挙げられる。(ちなみにキーエンスはHPでほとんどIRデータを公開していない(非上場企業並みだ)ので、有価証券報告書のセグメント情報などを参照)

日本国内において、まず生産設備の部品や製品をつくっている大企業は比較的高収益である。これは日本国内の製造会社が設備として日本製しかほとんど採用しないためである。
そして、キーエンスの製品群はFAにおいてもかなり寡占化されておりセンサー、画像センサー(画像検査装置)、レーザーマーカーといった製品は中国などの安い製品は日本ではほとんど採用されず、国内メーカーも数が多くない。センサー、シーケンサーのみならず画像センサー、レーザーマーカー、マイクロスコープといった周辺分野を攻略しようとするのは他国メーカーが参入できないため、営業上の強みを製品の多角化で拡大させようとする日本独特の環境である。

FA分野でも海外メーカは画像検査もレーザーマーカーも専門メーカーが開発しているが、では事情が違う。キーエンス以外でもパナソニックの子会社のSUNXも同じ形態でレーザーを扱っており、オムロンも三菱も幅広い製品を扱っている。通常のメーカーであれば専業でなければ研究開発も製品開発も十分に行えないのを専門メーカーからのOEMや委託開発生産に頼り、ビジネス上の強みを営業網羅力に頼る構図になりつつある。

日本の電機業界は低収益を克服するために高品質製品を作る努力をしたため、ますます日本製FAが採用された事情がある。海外製品はそもそも品質に問題があったり、何よりも生産設備においては24時間体制のサポートが重要なためやはり国内メーカーが採用される。今や日本の工場は生産を止めることができないほど合理化された中でも利益を上げられないのだ。

他方、消費者に最も近いセットメーカーである電機各社はグローバルに他国の企業と熾烈な競争を強いられているのである。さらに国内電機メーカーだけでも多数存在しており国内の競争でさえ熾烈である。

ようするに現状はキーエンスと日立では戦っている土俵が違っている。

さて、電機各社は今後も厳しい状況が続くと何度も指摘している。生産においては垂直統合から水平分散に変わり、コストを大幅に下げないといけない。国内にもメーカー数が多すぎる。三洋とパイオニアが買収されたり、TVから撤退ぐらいでは済まない。総合電機も競争力のある専門分野に絞らないといけない。三洋が電池に絞って良くなったように。

さて、そのような変化はあまり見られないのと、さらに電機業界が弱くなると必然的にキーエンスの属するFA分野も国内では市場が小さくなってしまうのではないか。

電機も自動車も国内の市場が小さく、人件費も高いため海外での工場化は避けられない。そうしなければ海外企業と競争できない。

さて、海外でキーエンスのような日系FAメーカーの競争力はどうだろうか?例えば成長がもっとも期待されるのは中国である。中国は世界の工場になっているだけでなく、これから人件費が上昇するためこれまでのような労働集約型(ロボットを使わず人力でものをつくる)から自動化は進んでいくだろう。

多軸ロボット分野は日本が強いだろう。高度な製品をつくるためには高度な工作機械やベアリングも日本の品質は高い。しかし、生産設備において低品質なものをつくるには高品質なFAは必要ないというそもそもの問題があるのと、キーエンスの高収益の源泉のセンサー類は高度技術とは言い難い。
キーエンス自身もファブレス企業として生産を丸投げしているのである。

中国では電子部品なども最近では偽物が出回っている。単純な製品(部品点数が少なく製造が容易)なものは中国製でも良いとなってくるかもしれない。

そのようなことから高い株価のキーエンスであっても前途多難であり、更なる成長のキーポイントは海外展開であり、新たな領域を開拓するか、生産に必要かつ高付加価値な製品をつくり続ける必要があるのではないだろうか。


Comments