›5 31, 2009

誰が電気自動車を殺したか?|潰されたGMの背後にあった力

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プリウスやインサイトというハイブリッド車は電気自動車(EV)では無い。10年以上前からハイブリッドカーというのは電気自動車になる前のつなぎの技術とされていた。
ハイブリッド車はガソリン車であり、エンジン車であるが電気自動車はエンジンも無く、ガソリンもいらないのだ。

ところが、10年以上前に電気自動車EV1がGMから発売されたが、その後完全に姿を消してしまった。10年以上前のブッシュ政権以前のアメリカにおいて、カリフォルニア州などゼロエミッション(排ガスゼロ)を目標にしたり環境問題にうるさく関心が高い時代に電気自動車は登場した。

ブッシュ政権になり、湾岸戦争が起こり、環境は大きく変わった。環境問題は下火になりGMは電気自動車をどういうわけか必死になって全台数を回収しスクラップしてしまった。壊れているわけでも無いのに廃車にされた無残な姿が山をなしていた!そしてガソリンの燃費が非常に悪いハマーを積極的に販売した。

ブッシュ政権は地球温暖化防止にむけた世界的な協定である京都議定書にサインをしなかったのだ!

DVD「誰が電気自動車を殺したか?」という映画は、GMが1996年にリリースされたEV1という電気自動車がカリフォルニア州とアリゾナ州から完全に姿を消しす事情を様々な関係者の話を交えながら犯人探しをするドキュメンタリー映画である。

「なぜGMがここまで強硬な姿勢をとるのかについては謎である」というナレーションが印象的だ。触れてはいけない圧力、あえてマスコミが公にしないし調べようともしない力が加わっていることを暗示させる。

石油業界と密接な関係のあったブッシュ政権であるが、石油業界は電気自動車に様々な理由をつけて販売の邪魔をしようと新聞広告まで出していた。
電気自動車になって困るのは石油業界だけでは無かった。エンジンがいらないので、職人的技術の集積である金型や鋳造といった技能分野の業界や工作機械も多くが不要となってしまう。電気自動車はエンジンと違いアクセルを離すだけでブレーキになるのでブレーキパッドが消耗しにくい。またエンジンが無いのでオイル交換といった消耗品、メンテナンスを行うBody Shop(車体工場など)も不要だ。
自動車メーカー自身も大きな危機となる。ハイブリッド車のプリウスでさえコストの50%以上が電装品である。ところが電気自動車はコストの50%以上が電池(バッテリー)である。(これは車載用電池として量産化されていないためだろう)。残りのコストの多くは電装品であり、自動車メーカーの収益元や技術的優位性が崩れてしまう。(電機業界が作れてしまう。)

その一方で電気自動車の熱烈な愛好者がEV1の乗り心地、技術的優位性、環境適応力に大きな評価をしていた。芸能人でもメル・ギブソンやトム・ハンクスが絶賛していた。

この映画を見てトヨタ、ホンダの現在の技術より遥かにGMが進んだ技術を10年以上も前に提供していたことが驚いた。

ガソリンが電気に変わることによって不利益をこうむる企業、団体(既得権益者)が多く存在することがわかる。そしてそれらの団体はロビー活動を通して政治圧力をかけることができる。石油会社は電気自動車を批判した広告を新聞に載せたり、充電スタンドの設置にクレームをつけたりと電気自動車を阻止するためにあらゆる嫌がらせを行った。そのようなことが世界規模での経済、政治、はたまた安全保障まで影響が大きいのである。

陰謀説のように感じるかもしれないが、GMが倒産(チャプター11)を申請の裏に潜む巨大な権力を感じる。

トヨタがずいぶんと控えめな(大赤字の)今期予算を出す気持ちがわかってくる。かつてアメリカの車産業の圧力で不買運動でハンマーでボコボコにされた日本車。今、トヨタの首脳陣はどんな気持ちでいるのか思いをめぐらしている。

「誰が電気自動車を殺したか?」は「誰がGMを殺したか?」とみれるのではないか。


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