›3 23, 2015

狭小邸宅

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新鋭小説家が現代の「蟹工船」と呼ばれる不動産・住宅販売の現場をまるで湯気の出そうなドキュメンタリータッチで描いている作品だ。

主人公は、都内有名私立大学を卒業したものの就職活動に失敗し、都内の不動産販売会社の営業マンとなった。
そこはブラック企業で、販売不振な社員には殴る蹴るの暴行が平気で行われている会社だった。

大量に新卒を採用しては殆どが辞めていく会社だ。
主人公もまた冴えないセールスマンで、売れない日々が続き、夜遅くまで働き、休日も一切無い環境で罵倒や暴力に耐えながら仕事を続ける。

住宅販売は難しい。一生に一度の買い物であるため慎重に比較検討される。
そもそも住宅を検討するのであって、営業マンの対応で売買が決まるものでもない。

それでも、売れる営業マンは売れるし、売れない営業マンは全く売れない。

上司からゴミ以下の扱いを受けても、主人公は辞めないのだ。

売れなすぎて、もう会社にも居られない状態となる。何しろ営業マンは居酒屋やデイサービスのブラック企業と違い、売れなければ会社にとってただの経費の無駄遣いでしかなく、低賃金過労者でさえないのだ。

売れなければ辞めるだけ、だが辞めさせられるまでの1ヶ月の間、誰も手を付けなかった蒲田の売れ残り物件と向き合うこととなる。
サンドウィッチマンと呼ばれる看板をクビにぶら下げ、チラシを配ることを続けると、何と奇跡的に売れたのだ。

誰も売ることができなかった問題文献を手がけたことで、社内の評価はガラリと変わる。

売れる上司の指導を受け、クロージング技法を学ぶことで成約を連発するのだ。

家を買おうと思ったことがある者なら分かるだろう。なかなか良い条件の物件は無い。たらい回しでゴミ物件を見せて、最後にそこそこの物件を見せてクロージングする。更には、掘り出し物ですぐに売れると焦らせ買わせる。

要するにクロージングテクニックを用いて、充分に比較検討する時間の無い医者や弁護士といった忙しいけど金を持っている客を食い物にする技法だ。
そもそも建売住宅で家が建った後に販売しているのは、全て売れ残り商品なのだ。

不動産の営業は成果報酬による歩合が賃金の殆どだ。
売れるようになった主人公は、高価なスーツに身を包むようになる。

しかし、心がすさみ、友人や恋人を傷つけ、やがて嫌な自分になっていくことで精神が崩壊していくのだ。


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