›6 25, 2014

麻薬ドラマ「ブレイキング・バッド」

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有名な俳優が出演していないのに、全米で圧倒的な人気となった映画「ブレイキング・バッド」が面白い。

舞台は砂漠を開拓した新興都市ニューメキシコ州アルバカーキで、しがない化学の中年高校教師と家族を取り巻く物語だ。
ウォルターはかつては優秀な科学者であったものの、親友に研究結果を取られ年収400万円程度の教師をして更に洗車のアルバイトをしているが、肺癌が発覚し人生の岐路に立たされる。

このように死に直面して初めて生き始めるというドラマは多い。黒澤明監督の「生きる」なんかもまったく同じストーリーだ。

ところが、この主人公は、身の丈に合わないプール付きの邸宅に住み、脳性麻痺の高校生を抱え、更には嫁が妊娠しているのだ。残された家族のことを思うと死にきれないという思いに立たされるのだ。住宅ローンも残されたままで、日本のように死亡保険付きの住宅ローンになっていないため、残された家族に支払い義務が生じるのだ。

そこで、タイトルのブレイキング・バッド。これは道を踏み外すという意味があるようで、ウォルターはかつての教え子で不良のジェシーを捕まえ、覚せい剤の製造をして金を家族に残そうとするのだった。

さすがは有能な科学者だったということもあり、純度の高いメス(覚せい剤)を製造し、麻薬業界に一躍有名となる。

アメリカでは、借金で身の丈に合わない生活をする。返済のために仕事を掛け持ちすることも増えており、覚せい剤はそんな社会背景もあり蔓延している。
日本でもかつてはヒロポンの名前で覚せい剤は合法で親しまれていた。

実は日本でもアメリカ同様に覚せい剤が蔓延しつつある。しかも、これまで検挙者が10~20代だったのに対し、近年では40~50代といった中年が半数を超える。ごく普通の生活をしている家族を持つ中年が、ストレスの増加や激務をこなすために覚せい剤を手にしているのだ。インターネットで手軽に取引されているのも増加の原因のようだ。

かつての覚せい剤はアンフェタミンであったが、より覚醒度の強いメタンフェタミン(メス、スピードなどと呼ばれる)に移行している。

ウォルターの作った良質のメスは、ジェシーが売りさばいていたが、やはり流通させるためにはプロの販売網を活用しなければならくなる。そこで街のチンピラに接触したことから事態は悪化していくのだ。

チンピラとはいえ、彼らは暴力を振るうし、バックにはギャングがいる。その背後にはメキシコの麻薬カルテルがいて、ウォルターと家族は危険にさらされることとなる。
更には、1億以上稼いだものの、麻薬で稼いだ違法な金のため、脱税した裏金同様に使うことが出来ない。しがない教師が大金を使っていたらすぐに税務署に見つかってしまうのだ。

また、ウォルターの義弟は麻薬捜査官(DEA)であり、後戻りの出来ない状況に追い込まれていく。絶体絶命の度に化学の知識でなんとか切り抜けていくのも面白い。例えば、毒ガスをつくって逃れたり、爆発物をつくったり、死体を塩酸で溶かして処分したり。

はじめは人殺しなどできなかった主人公が悪の道に引きづりこまれ、なんの躊躇もしなくなっていく怖さもある。

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