現在の日本経済は、需要に対し供給過剰であり15兆円のデフレギャップがある。リーマンショック以降30兆円にものぼったデフレギャップを解消するために、様々な経済政策を行ったものの、未だにデフレは解消されていない。
麻生政権時代に需要拡大のために様々な経済政策を行ったが、その目玉政策は「エコポイントとエコカー減税」であった。
定額給付金による消費者への直接交付の場合、それが使われず貯蓄されてしまえば消費刺激とならない。GDPにまったく寄与せず、政府の資産が個人へ移動しただけである。
ところが、「エコポイントとエコカー減税」は消費者が消費しなければその恩恵を得られないという点では優れた不況対策であった。
「エコポイントとエコカー減税」は減税による経済波及効果がある。消費者がダイレクトに得をするから買うことによる需要増に加え、それが乗数効果として波及していくからである。
エコカー減税ではハイブリッドカーが飛ぶように売れ、消費者は何カ月も納車を待つほどの事態となった。エコカー減税は延長措置が取られているが、エコポイントは終了した。
耐久財需要を直接刺激する対策として効果を評価する意見がある一方、やはり負の面の批判の声もある。
このような経済政策は、特定の製造業に特化した市場介入による経済政策であり、不公平感がある。
また、政府のエコカー対象への対策が有利な日系自動車メーカーや家電メーカーに恩恵が偏っており、業種間の経済格差を広げたという意見もある。
需要の先食いであり、減税終了後はその反動でまた需要不足に戻ってしまう。
そもそも購買力のある富裕層に有利な政策であり、購入能力の無い層には無縁の経済政策でもあった。
製造業を見渡してみれば、リーマンショック後の雇用の維持にはつながったが、永続的なものでは無かった。むしろ市場ニーズにあった業種転換、新製品開発を遅らせたのではないだろうか。
自動車業界に関して言えば、エコとは名ばかりの日本車優遇の減税処置であり、日系メーカーの恩恵は大きかった。自動車のライフサイクルを短くし、買い替えた人も多いが、今時の自動車は10年以上乗り続けることが可能であり、本来は買い替えず乗り続けるのが消費者にとっては一番メリットがあったはずだ。
若者の自動車離れや電車や地下鉄の整備や人口減から日本での自動車ニーズが向上することはなかなか無いだろう。自動車業界にとって今後の主戦場はやはり海外であり、エコカー減税の効果として日本の雇用が守られたと考えられる一方、国内のリストラを遅らせグローバル展開の足枷となったと考えることもできる。
同様に、終了してしまったエコポイントは、テレビ業界に深刻な赤字をもたらした。パナソニック、ソニー、シャープとエコポイントで薄型テレビの販売を行い、一番経済対策の享受を受けたはずのメーカーが倒産の危機に瀕する事態に陥ってしまったのは、売れたばっかりに、本来の需要や市場ニーズやグローバル対応の遅れを招いたからではないだろうか。
シャープの例では、亀山ブランドに拘り、二流メーカーでありながら一流メーカーのスペックで世界に挑戦した。しかし、価格・機能・ブランドのどれをとっても韓国勢に叶わず敗退してしまった。太陽電池も同じように補助金漬けの製品であり、また中国などの低価格品に対する競争力も無くなってしまった。
需要喚起は大切であり、「エコポイントとエコカー減税」は消費喚起という点で優れていたと思われていたが、デメリットも大きかったと総括できるのではないだろうか。供給側の理論(サプライサイド)で考えれば、税負担が大きければ消費も働く意欲も失われる。
デフレ経済下で最もやってはいけないのが、増税である。それをこの時期に消費税増税とは需要の減退につながるだろう。
消費税を減税すればそれだけ消費が活性化するのだ。財政の厳しさもあるが、デフレを先に対処することが大切なはずだ。