「ものづくり白書2012」では、苦戦の続く日本の製造業について細かく分析されている。
かつては「産業の米」と言われた半導体産業はエルピーダの倒産やルネサスの経営不振、大リストラが象徴するように儲からない産業に変わってしまった。半導体をはじめとした電子部品は付加価値が大きく、米粒ほどの大きさで数千円という単価が付いたものが、今では数円、もしくは1円以下という電子部品もざらにある。米粒より安くなってしまうのではないかと言われているものもあるほどだ。
もはや時代が大きく変わったことがデータで見てとれる。
モジュール化によって、これまですり合わせ技術でしか作れなかった製品が、買い物を集めれば作れるようになった。この典型がパソコンだ。日本ではまだカメラメーカは電機メーカと比べ世界的に競争優位を保っているが、レンズ製造の技術などまだ「すり合わせ」技術が残っているからと言われている。この分野でも海外勢の追い上げがすごく、またモジュール化が進んでおり、デジカメは海外メーカが多くなった。サムソンなどが本気でカメラにリソースを投入すれば、日本のカメラメーカは電機メーカのようになってしまうかもしれない。
工作機械のシェアは中国が30%で日本が18%、ドイツが15%と中国メーカの躍進が目立つ。工作機械の出荷先は中国が47%と、中国は世界の工場となった。
中国のNC工作機械の生産額は1999年に1万台弱から2003年の3万6千台と、とんでもない急カーブで上昇している。日本が製造立国となった過程を真似ればよいタイムマシン経営で、資本を投入すれば成功のチャンスが大きかったのがここ10年程の中国の設備産業だろう。
CADの普及率も日本も中国でも大差が無い。むしろ、若者が多い中国の方がこれから有望だとも思えてくる。日本では未だにプロッタで図面を書いている町工場、町の設計事務所の多いこと。日本の町工場は、2ちゃん、3ちゃんなど、父ちゃん・母ちゃんの数名で行っている事業者がかなり多く、資本効率が悪い。中国では中小企業でも農民工数百人いたりする。
iPhone4Sの利益配分の図も改めてみると、日本の部品メーカが弱くなったと実感させられる。
小売価格600ドルに対して、Appleの利益は270ドル、部品メーカの日本はわずかに0.5ドルであり、韓国の80ドルよりもはるかに小さいのだ。
さらに重要なのは、図には無い、ものづくり以外のコンテンツ収益はAppleが独占していることだ。
国際分業体制の確立が企業の存続で重要ということもわかる。これまで日本企業は垂直統合、系列、下請けといった身内の経営が中心であった。
CPUのインテルは、インターフェースの標準化によりパソコン価格下落にもかかわらず、CPUの価格は維持されているという例を見てわかるように、プラットフォーム確立が重要だろう。
10年前は大きな赤字を出した小松製作所のV字回復は、KOMTRAXというGPSを搭載した遠隔機械稼働モニタリングシステムによりアフターサービスを強化して、収益源をものを売ることからサービスに移行したことだ。
これは、ソフトウェア会社やIT企業が築いてきたビジネスモデルで、ものを無料で配ってでもサービスで課金するといった新しい方法になるのかもしれない。
製造業の就業者数は約1000万人で2000年から200万人以上減った。他方、サービス業就業者は約2200万人と2000年から370万人増加した。尚、サービス産業の平均公用車報酬は製造業より約150万円低い。賃金が低い産業にわざわざ移る馬鹿はいないわけで、リストラ、解雇がいかに大規模に行われたかがわかる。
自前主義を辞めることは、ものの調達だけに限らない。これからは製品開発、研究開発といった分野でもグローバルな協業体制が大切になことが実感できる。
人材の流出が海外への技術流出につながっていることもデータでわかる。また、日本企業はグローバル人材の不足している。
英語力、異文化コミュニケーション力のある人材、マネジメント教育を受けた人材が極端に少ないのが日本だとわかる。
様々なデータを見ると、日頃感じていることが納得できることが多い。