›5 29, 2005

アマゾン・ドットコムの分析(3)

Category: 経営戦略 / 0 Comments: Post / View

アマゾン・ドットコムを調べていると、次から次へと新しい発見があります。
今回、顧客満足に対するアマゾン・ドットコムの思想を書こうと思っていた
のですが、他のことを書いたら長くなってしまったので次回に回します。
すみません。

スターバックスのブランド価値の作り方もすばらしいと感じましたが、アマ
ゾン・ドットコムは自社製品を売っていないにもかかわらず、ユーザーから
圧倒的な支持を得ています。その根本は顧客満足度です。
そして口コミによって支持が広がりました。

ブランドを作りたいと思ったら、根本は顧客に対する姿勢できまるのだと思
いました。「アマゾン・ドットコム」という本はアマゾンのホームページを
見ているだけではわからない、徹底したバックエンド業務と従業員のモチベ
ーションの高さを垣間見ることができます。お勧めです。

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▼ アマゾン・ドットコムの分析(3) ▼━━━━━━━━━━━━━━━
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(8)Earth's Biggest Selection
アマゾン・ドットコムがサイトを開いた時期は、まさにインターネット・ビ
ジネスが開花した時であった。

創立以来1度も利益を計上したことの無いネットスケープ社が、95年8月9日
にNasdaqに上場されると、株価は初値の倍以上に上昇し、初日の取引
が終った時点での時価総額が27億ドルになっていた。

そして、すぐにインターネット市場というものが世間に認知され、早いもの
勝ちでシェア争いさえることとなった。

アマゾン・ドットコムは、ベンチャーキャピタルから資金を供与されると、
大きな戦略転換を行った。それは、一言でいうと

 Get Big Fast

になる。事実、社員・アルバイト全員にこの文字の入ったTシャツが配られた。
利益よりも市場シェアを取れ、という意味である。そのためにどのような
競合他社よりも早く市場を奪う必要があった。

幸い、既存書店のバーンズ&ノーブル社はインターネットを重要視しておら
ず、脅威に感じ初めてからもインターネット書店が既存書店を脅かさない
(うまく住み分けされている)ことからインターネットに進出するのが遅れた。
このため、アマゾン・ドットコムはインターネット市場で、まず本屋として
のフランチャイズ構築に成功した。

バーンズ&ノーブルが本腰を入れ始めた時期には、アマゾン・ドットコムは
既に市場を制覇していた。アマゾン・ドットコムが行うプロモーション、販
売促進、物流戦略、Web構築のすべてにおいてバーンズ&ノーブルは劣った。
それは、バーンズ&ノーブル社の本業がWebで無いのが災いした。当初のバーン
ズ&ノーブルのウェブサイトは、完全にアマゾンの模倣に過ぎなかった。
今でも、すべてがアマゾンの後手で模倣している。
http://www.barnesandnoble.com/

他方、バーンズ&ノーブル社はアマゾンのできることはできるから、アマゾン
の競争力はないというフォーブスの記事もあった。
http://www.business2.com/articles/mag/0,1640,2631,00.html

その後、何度もバーンズ&ノーブル社とは訴訟となる。
アマゾン・ドットコムからはユニークなアイデアが次々と出てきて、これま
での発想には無い新たなビジネスモデルを構築していくこととなる。

例えば、アフィリエイト・プログラムがある。
これは、ホームページ作成者が本を紹介する際に、アマゾン・ドットコムに
リンクを張るだけの単純な仕組みなのだが、この仕組みからアマゾンは卸、
ホームページ作成者は小売といった図式となり、アマゾン・ドットコムが
販売活動をしなくても数え切れないほどの小売が誕生したこととなった。
事実、直ぐに1万件の提携を超え、バーンズ&ノーブル社がアフィリエイト・
プログラムを開始した際には、手遅れに近い状態となっていた。
バーンズ&ノーブルは、アマゾン・ドットコムとほぼ同じレベルのシステム
を構築できたが、それ以上のものが無かった。アマゾン・ドットコムは、
本の買い物以上の体験をさせることを目指した。

アマゾン・ドットコムは、新規参入のメリットとオリジナリティ溢れるサー
ビス開発力を特許にも向けた。顧客がワンクリックで商品を購入することが
できる仕組みに対し、バーンズ&ノーブル社を特許侵害で提訴した。

これはアマゾン・ドットコムが優位に立ったと知らしめた事件であったが、
逆にこのような単純な仕組みでビジネスモデル特許を取ったため、インター
ネットの進歩を阻害するとしてボイコット運動も立ち上がった。
http://www.noamazon.com/

だが、ジェフ・ベゾスはさすがにプロモーションの名人で、アマゾン・ドッ
トコムのファン(愛好者)が既に形成されていた。そして口コミでアマゾン
のすばらしさは既に広まっていた。

ネットバブルの到来とともに、アマゾン・ドットコムの資金は潤沢になって
いく。それでも利益は決して出さない。1度利益を計上させたことがあった
が、20世紀に1度利益を出したことは大きな間違いであったとジェフ・ベゾス
は告白した。

未だにGet Big Fastの精神でボーダーズとの提携から大小かまわずのM&Aで
市場を広げている。
例えば、下記サイトも吸収させられてしまった。今では単にアマゾンへの
リンクとなり、既存顧客にアマゾン・ドットコムで買い物を進めるページ
となっている。
http://www.ourhouse.com/

その後、アマゾン・ドットコムの経済価値は26億ドルになり、バーンズ
&ノーブル社の1.4億ドルを圧倒した。(EVAで有名なスターンスチュ
ワート社/2000年発行「Internet Valuation」
経済価値としてValue=Capital+EVAで計算されている)

アマゾン・ドットコムの成長を加速し、フランチャイズ化しようとする計
画は出資したベンチャーキャピタルの影響もあると思われるが、フランチャ
イズに見られる資本の有効活用といった概念は、米国ではビジネスの根底
である。

ベンチャーキャピタルは主に、投下資本を起業のIPOで回収しようとするが、
株式公開後の事業や、ビジネス本来の収益性で言えばROIという指標を
基本とする。

 ROI=投下資本利益率
(財務会計における投下資本利益率とは異なり、資本コストまたは金利と
いった概念を取り入れたキャッシュフローベースの値が重要視される。
最近はキャッシュフロー投下資本利益率(CFROI)という値が良く話題に
でる。)

この値が意味するのは、小さな資本で長期的にどれほどの利益を生むか
である。この値をベースと考えると、できるだけ小さい資本で、将来的
に安定した利益を生み出すかという概念となる。
米国では80年代に設備産業の製造業が衰退し、ITや金融といった、
知的資本産業へと変貌した。米国に行くとMade In U.S.Aと書かれた
商品を見つけるのが難しいほどである。もっとも米国は世界一の軍事力
をバックに発展途上国を生産拠点とする能力に長けているのが、日本
と抜本的に異なるという事情がある。

フランチャイズは古くからあり、設備産業といった側面もあるが、基本
的にノウハウ・ブランドといった知的資本が生産性の源となっている。

アマゾン・ドットコムもインターネット市場において何でも売れる、
どんな情報でも手に入るという新しい文化の創出、購入、アフターケア
とノウハウを蓄積しフランチャイズ化を創出しブランド化した。
アマゾンは本、CD以外はほとんどM&Aで多角化した。

ブランド化が水平統合(市場の拡大)を進めた。それ以前に垂直統合
(仕入れから販売までの物流)は済んでいた。

インターネットで様々な分野の商品を販売していくことが、アマゾン
にとってフランチャイズ化であった。


(9)最高のインターフェース
ジェフ・ベゾスはサイトのデザインよりも消費者の利便性を最重要視した。
通常、大規模のECサイトを使用していると重くて(サーバ側の負荷が高く、
レスポンスが遅い)イライラすることが多いが、アマゾンはいつも軽く使う
ことができる。
デザインはシンプルでFlushのような思い動画が動いたりすること無く、
快適に使用することができた。
そして、どんなブラウザでも使うことができるように設計された。

NTTデータのバーチャルモール「まちこ」は一般生活と同じ感覚でインター
ネットで買い物ができる仕組みを目指していた。
パソコンに専用ソフトをインストールして3Dで仮想の町を探索でき、店舗
を見たり、他のユーザーに話しかけたりすることができた。
当時画期的と呼ばれたが、アマゾンの思想とは反した。
アマゾン・ドットコムはインターネット・ショッピングは一般生活の買い物
とはまったく違うものだと捕らえていた。消費者のニーズ(ニーズというよ
りもシーズ「種」と言ったほうが正しい)を常に考えていた。

消費者はバーチャルモールでの買い物と一般生活での買い物ので同じイメー
ジでは行わなかった。
インターネットを利用するには、一般生活での買い物にはないメリットが
なければならなかった。
「まちこ」だけではなく、大掛かりなグラッフィックや仕組みで一般生活と
同じように買い物ができるサイトを目指したサイトはどこも消費者の心を捉
えることはできなかった。当時は日本も米国もダイヤルアップの32Kbps
や64Kbpsに満たない低速な接続環境だったのも原因にあげられる。


(10)日米の発想・文化の違い
日米の発想違いは根本的にはいつも住所の書き方に象徴された。
日本では、県から市を書き最後にアパートの住所を書く。
他方、米国では正反対の書き方をする。

これは、象徴的で、日本が大まかな発想から焦点を絞るのに対し、米国では
ちょっとした発想を大きく育てる。

文化の違いで言えば、日本はやはりまだ保守的だ。
社会主義的な嗜好の限定性、島国根性と言われた鎖性がある。
米国は歴史が無く、文化そのものが無いという意見もあるほど価値観の開放
性が高い。

これだけデジタル化が進んだ世の中で、年賀状を紙で出す意義は本来無い。
だが、日本人で年賀状をeメールで済ますような無礼者はいない。
デジタルで作成しても、必ず手書きで一筆文章を加えて、郵便という非効率
な方法で送る。

米国では、グリーティングメールが非常に発展した。デジタルを扱える者は
デジタルでという新しい文化に誰もが簡単になじめる。固執する文化がない。

このことは起業、創業に重要な意味を持つ気がします。
新しい発想、価値観をどれだけの人が認めるか、投機するか。

日本経済の復興はそこにかかっている気がします。
政治で言えば、小泉首相の構造改革に対する風当たりの強さ、銀行の既得権
益と文化固持を見ると幻滅します。

<アマゾンの最新決算状況>
創業から既に7年たったが、市場シェア取るために黒字経営を犠牲にしてる
ことがわかる。

2002年第3四半期決算状況
売上高8億5100万ドル
前年同期の6億3900万ドルに比べ33%の増収

純損失は3500万ドル。
前年同期の純損失は,1億7000万ドル(1株当り損失は46セント)

純利益は,40万ドル(1株当り利益は0セント)。
前年同期の同条件の純損失は5800万ドル(1株当り損失は16セント)

http://www.corporate-ir.net/ireye/ir_site.zhtml?ticker=AMZN&script=410&l
ayout=8&item_id=349176


次回はアマゾン・ドットコムの顧客に対する考え方を見ていきます。

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松井には頑張ってもらいたいな。Gは嫌いなので、これで応援できる。

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